教育委員リレーコラム

  

「スモール・イズ・ビューテイフル」(若原委員)

若原委員  鳥取県教育委員 若原道昭

「スモール・イズ・ビューテイフル」

 経済の収縮とともに量の成長から質の成長の時代へと移行していかなければならないという成長型から成熟型への価値観の転換、成長推進から成長抑制へ、成長から均衡へ、成長から成熟へという思想は、世界的には1970年代に盛んに主張されました。
 それらには例えば1972年のガボールの著書『成熟社会』や、ローマクラブのレポート『成長の限界』があります。シューマッハーの『スモール・イズ・ビューテイフル』が出版されたのも1973年のことでした。彼は仏教の教えから経済活動を見直そうとする仏教経済学者でもあり、人々の幸福度をモノの所有や消費の量によってはかる経済学や巨大技術信仰を疑問視し、わずかな手段で十分な満足を得ることを理想としていましたし、また後に現実のものとなった再生不能の燃料資源に頼ったエネルギー危機や原子力利用の危険性をも予言していました。
 これらの主張はいつしか経済成長の掛け声にかき消されてしまったかの感がありましたが、2011年3月の東日本大震災の経験をへて、今再び注目され再評価されています。人々の真の幸福をめざすという点からは、むやみに量的拡大を求めるのではなく、小さいことの良さ、小さいことによって可能となる精神的質的な価値が見直されているのです。人口の減少や経済成長の停滞は、衰退し没落していくばかりの悲観的な未来社会を否応なく予感させるかも知れませんが、その中にあって面積と人口の少なさではもともと決して他県にひけをとらないわが鳥取県には、次代のモデルとなるような新たな価値観と生き方を生み出しうる、将来への希望につながるものが潜んでいるのではないかと期待したくなります。
 スモールであることの魅力は何と言っても、物理的なコンパクトさだけではなく、人と人との心理的距離の近さと互いに顔の見える関係性、それゆえに可能となる小回りの利く親密な意思疎通と無駄のない現実的な温もりのある丁寧な対応、つまり人間味と管理のしやすさ、にあります。「小さいことはすばらしい」と言うシューマッハーは、「人間というものは、小さな、理解の届く集団の中でこそ人間でありうる」とも言っています。
 同時にコンパクトな社会では、私たちの姿勢も問われます。そのインサイダーである私たち一人ひとりにより明確な当事者意識・当事者責任が求められるがゆえに、「~してくれ」というただ受け取るだけの消費者・利用者の発想ではなく、「自分に何ができるか」という参画者の発想へとコペルニクス的に転回しなければならないからです。

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