教育委員リレーコラム

  

成熟社会と教育の質的転換

 鳥取県教育委員 若原道昭 

 学校教育の在り方は社会の在り方によって規定され、社会(の要請)の変化とともに変化しなければなりませんが、他方で学校教育は、将来の社会の担い手を育てることを通して社会の将来のあり方を規定する、という二重の関係があります。

 「成熟社会」という耳慣れない言葉が、一年前の中央教育審議会の答申の中で使われています。唐突な感じもしますが、この「成熟社会」という言葉そのものは、1972年にデニス・ガボールが、その当時流行っていた未来学の一種とも言える彼の著書の題名として用いたものです。彼は「これからの人類社会は成熟社会でなければならない」と説いています。

 科学技術を発達させ、経済成長を遂げた人類は、その次の未来への出口をどこに見つけるべきなのか。
 それは、これまでのような毎年たえまなく続く経済成長が終わりを遂げた後に実現する、平和で自然環境とも調和した社会だと言うのです。頑張りつづけて、欲しい物やサービスを手に入れてきた「発展途上の社会」から、高い文明水準でバランスがとれた次の成熟社会へと移行すべきだと言うのです。

 その成熟社会と言われる社会では、たとえ経済成長がなくても人々が幸福を感じられる健康な社会をいかにして築いていくかということが重要になり、そのような社会の未来を創造する力、切り拓いていく力が、これからの学校教育がめざす人間像の要件となってまいります。

 数年前から日本の大学では、ユニバーサル・アクセス段階とグローバル化の時代を迎えて、「大学教育の質保証・向上」が叫ばれてきましたが、今では「大学教育の質的転換」という表現に変わってきています。

 これは単なる表現の変化ではありません。今、若者の主体的な学びを鍛えるために、学習者中心の教育、一方通行型の知識の伝達だけにとどまらない能動的学習、双方向型授業、参加型授業、アクティブラーニング、PBL(問題解決型学習)などの積極的導入や、ICTを活用した教育の推進が強調されています。

 少人数教育のメリットは何かということとあわせて、「学びの質の向上」とか「質の転換」とは一体何なのか、議論し共通理解を深める必要があるのではないかと思います。

 

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