教育委員リレーコラム

  

屈伸力

鳥取県教育委員会 委員 岩田 慎介 岩田委員の写真


 

1.はじめに

委員に就任してから3回目のリレーコラムとなります。いつにも増しての拙文となりますこと、ご容赦願えればと思います。

2.きのこ採りのコツ

自他共に「アウトドア」という言葉が似つかわしくないと思っていましたが、昨秋、友人に誘われてきのこ採りに出掛けました。
目が慣れていないせいか最初の1本を見つけるまではかなりの時間を要しましたが、コツを掴めばどんどん見つけることができました。
きのこは、直ぐ足下にあっても見逃しやすいので、同じ場所でも行ったり来たりしたほうが採りはぐれることが少ないのです。
その証拠に、行きでは見逃していた潅木の裏側にごっそり、なんてことが多々ありました。
また、きのこ採りでは目線も大事になります。
立った状態では見えないものでも、屈むと随分発見できました。
むしろ、屈んだ方がきのこ目線となって見つけやすくなるため、高校時代の部活をほうふつとさせる「ヒンズースクワット」を繰り返し、その後数日間は筋肉痛に悩まされることとなりました。

3.きのこ採りから学んだこと

自然と格闘したきのこ採りでしたが、今回、改めて気づかされたことがあります。
それは、きのこ採りも人との接し方・人の育て方も同様ではないかということです。
入りづらい場所や見えにくい場所に限って大きくて立派なきのこが生えていたのですが、それは人材も同様ではないかと思います。
遠近を工夫し、高低に変化を付け、表裏に気を付けてみると見えなかったものが見えてくる、気付けなかったことに気付くことができるのではないかと思います。
屈伸することをいとわない姿勢こそが、大きな結果を得る重要な要素となるような気がします。
もちろん、「玉石混淆」という考え方にもうなずけますが、それを踏まえてもなおそう思えてくるから不思議です。 

4.屈んで伸ばす

このように、目線を低くすることは近くのものを見るには都合が良いのです
が、ともすると「木を見て森を見ず」の状況を生み出しかねません。
「屈む」ということは、「しっかり膝を伸ばす(=実践者としての自信と誇りをもって行動する)」こととセットとなって初めて活きてくると思います。
ある程度の年齢を生きてきたり、ある程度の役職に就いたりすると、相手の行為や思考に過去の自分のそれを照らし合わせて理解することが、時として億劫になるものです。しかし、過去から現在に至る自分の経験や思考を基に、相手に対して適切なアドバイスを加えたり苦言を呈したりすることこそ、先達としての責任感が試されるような気がします。
良き理解者であると同時に良き目標・良き羅針盤であることが、子どもに対する大人、児童生徒に対する教師、従業員に対する経営者、に求められる資質なのかもしれません。

5.実践の大切さ

「きのこはスーパーで買うもの」と今まで思っていましたが、今回、自ら汗を流してきのこを収穫してみると、地元にはこんなにも素晴らしい自然があるということがわかりました。そして、その自然の恵みに浴せる幸せ。勿論、
山に入るにあたってのルール厳守が条件ですが。
このようなことは、ネット文化の浸透のお陰でパソコンに向かうだけで様々な情報や物品を瞬時に手にすることが可能な時代だからこそむしろ大切なものであり、豊かな心を育んでくれるものだと考えます。
「自然は大きな学校」とよく言われますが、再度その認識を深めることができました。

6.最後に

気分転換になれば、との軽い気持ちで参加したきのこ採りで、予期せぬ人生訓を得たことに感謝したいと思います。
何事にも不確実な要素が多く、多様性を求められる今の時代に、地域や社会全体にとって、よりよい人材を育成していくためには、指導する立場の人間が、自ら、心と時間に余裕を持ち、時には目線を変える柔軟性を持つことが大切ではないかと、自問自答しながら思った次第です。

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