多鯰が池

多鯰が池

砂丘の近くに多鯰が池と呼ばれる美しい池があります。
この池にはこんな言い伝えがあります。

むかしむかし、国府というところに、ある気のいい長者さんがおりました。
長者さんの屋敷は栄え、多くの使用人を雇っておりましたが、その中におたねという福部から来た美しい娘がおりました。
 
ある寒い冬の夜、使用人たちは炉端に集まって話をしておりました。
ある男が言いました。
「冬に炉端のすわりこむんは、なんちゅう気持ちのいいこったろう。なんだあ冷たいもんが食べとうなったなあ。」
「そんなら私が冷とうて甘いもんをもってきましょう。」おたねさんが言いました。
外はもう暗くなっていましたがおたねさんはいそいそと出かけて行き、しばらくして籠いっぱいの柿を持って帰りました。
「なんちゅううまいだ!冬に柿が食えるなんてなあ。」使用人たちはたいそう喜びました。

こんなふうにおたねさんはいく度か出て行っては柿を持って帰ってきました。が、使用人たちはこんな寒い時期にいったいどこでおたねさんがこんなおいしい柿を取ってくるんだろうと不思議に思いはじめました。
 
ある月夜の晩のこと、二人の使用人がおたねさんの後をつけていきました。おたねさんはある池の岸辺までやってくると、その池の真ん中にある小さな島まで泳ぎ着き、木にするすると登って柿をもぎ始めました。月の光が明るく照らしたため、使用人たちは見てしまいました。木にすわって柿をもいでいたのは、なんと蛇だったのです。
彼らはたいそう驚き、屋敷へ駆けて帰ると、みんなに見たことをすっかり話しました。
 
この夜以来、おたねさんは戻ってきませんでした。池の奥底に姿をくらましてしまったのです。
そしてどういう訳だか、おたねさんが姿を消してからというもの、長者さんの屋敷は徐々におとろえていってしまったということです。
  

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