第1 請求の要旨
1 請求人の主張
県は、令和2年度一般会計予算で可決した「埋蔵文化財本調査」に関連する予算額(30,200千円)を公益財団法人鳥取県環境管理事業センター(以下「センター」という。)に経費支援(令和2年度公益財団法人鳥取県環境管理事業センター整備事業費補助金(以下「補助金」という。)及び産業廃棄物管理型最終処分場整備資金貸付金(以下「貸付金」という。))し、センターはこれを元に埋蔵文化財発掘調査を実施しようとしている。
この調査は、淀江産業廃棄物管理型最終処分場計画の実施を前提としているが、この計画は現時点では実施されることが確定していない。それどころか、計画地の地下水の流れに関して様々な議論があり、近くの水源地方向に流れる可能性も指摘されており、それを受けて鳥取県は鳥取県淀江産業廃棄物処理施設計画地地下水等調査会を発足させ、1年以上の期間に渡り様々な観点から調査を行っている最中である。この調査を始めるに当たって、平井県知事は「調査の結果次第では従来の計画が白紙になる可能性もある」と述べている。したがって、この予算を現時点において執行することは不当である。
現時点で執行されてしまうと、この計画が「白紙撤回」になったとき、淀江産業廃棄物管理型最終処分場計画の実施のために行われた埋蔵文化財発掘調査に費やした30,200千円の我々の税金は、全く無駄なものとなってしまう。
2 措置請求
すくなくとも、この淀江産業廃棄物管理型最終処分場計画の実施が確定するまでは、予算執行すべきでない。
また、センターに対しても、埋蔵文化財発掘調査を実施しないよう要請すべきである。
第2 請求の受理
監査委員は、請求人が財務会計上の公金支出の不当性を主張しており、また、本件請求のあった日は、県が補助金及び貸付金を支出した令和2年5月20日から1年を経過していないことから、地方自治法(以下「法」という。)第242条に規定する請求の要件を具備しているものと認め、令和2年6月8日付けで受理した。
第3 請求人の証拠の提出及び陳述の機会
請求人に対して、法第242条第7項の規定に基づき、令和2年7月2日に証拠の提出及び陳述の機会を設けたところ、新たな証拠の提出及び請求人の陳述があった。
第4 監査の実施
1 対象事項
本件請求書及び陳述の要旨から、本件の監査対象事項について、「補助金及び貸付金の支出が、法第242条第1項に規定する違法又は不当な公金の支出に当たるかどうか。」とした。
2 対象機関
循環型社会推進課
3 関係人
センター
4 実施方法
監査委員は、補助金については鳥取県補助金等交付規則(以下「規則」という。)及び公益財団法人鳥取県環境管理事業センター整備事業費補助金交付要綱を基に交付しており、貸付金については産業廃棄物管理型最終処分場整備資金金銭消費貸借契約を基に支出されたものであるので、それらを基準として適否を判断することとした。
5 実施期間
令和2年6月8日から同年7月27日まで
6 監査の執行者
監査委員 桐林 正彦
監査委員 山根 朋洋
監査委員 奈良井 恵
監査委員 広谷 直樹
第5 本件請求に係る監査の結果(抜粋)
1 監査対象機関から確認した事実
補助金及び貸付金の目的、申請の経過等は次の表のとおりである。
目・日付
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補助金 |
貸付金 |
根拠 |
- 鳥取県補助金等交付規則
- 公益財団法人鳥取県環境管理事業センター整備事業費補助金交付要綱(以下「要綱」という。)
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- 産業廃棄物管理型最終処分場整備資金金銭消費貸借契約書(以下「金銭消費貸借契約」という。)
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目的等 |
(要綱第2条 交付目的)
センターの活動を支援することにより、産業廃棄物処理施設の確保等を通じた産業廃棄物の適正な処理を推進し、もって産業の発展と地域住民の健康で快適な生活環境の保全に寄与することを目的とする。
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(契約書第1条 貸付)
甲は、乙が本県内に産業廃棄物管理型最終処分場を整備するに当たり必要となる資金として、乙に金10,067,000円を貸し付け、乙はこれを借り入れるものとする。
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令和2年4月8日 |
交付申請
算定基準額33,300,000円
交付申請額23,233,000円
うち埋蔵文化財本調査
20,133,000円
うち周辺整備計画策定準備
(※1)
3,100,000円
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申込書提出
借入金額
10,067,000円
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令和2年4月13日 |
交付決定
交付決定額23,233,000円
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金銭消費貸借契約締結
金額10,067,000円
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令和2年5月20日 |
概算払23,233,000円 |
精算払10,067,000円 |
※1 「周辺整備計画策定準備」は、本件措置請求の対象外である。
2 監査の結果
(1) 本件請求に係る補助金等の交付手続等に関する違法又は不当性について
請求人は、本件補助金等の交付手続等についてその違法又は不当性を主張するものではないが、監査の前提として確認したところ、違法又は不当性は認められないことを確認した。
(2) 請求人の主張する「不当性」についての監査委員の判断
ア 論拠1
知事は、記者会見(令和元年11月19日)で「地下水調査の結果次第では従来の計画が白紙になる可能性もある。」と述べており、このような認識がありながらこの予算を現時点で執行することは不当である。
論拠1に対する判断
知事の発言は地下水調査の結果が及ぼす可能性に対する認識及び心構えを示したものであり、他の要因により事業の遂行が困難となることは一般的に起こり得るとの認識を示したに過ぎない。また、知事は、最終判断をする際の基礎資料と捉えている。
さらに、地下水調査の結果が出るまでは産業廃棄物処分場計画(以下「関係事業」という。に必要な諸手続を止めなければならないとする特段の規定等はなく、どの段階でどの手続を行うかは一義的には事業者の判断に委ねられる。県がどのような事業にどのような支援を行うかについては、執行部の政策的判断による提案を議会が議決すれば有効に決定される。
したがって、請求人の知事の発言に対する評価は請求人の独自の判断によるものであり、容認できない。
イ 論拠2
知事は、遺跡調査は処分場建設とは別のものと答弁している。しかし、センターは、開発を前提に行う手続である文化財保護法第93条の届出を行っており、整合性がない。
論拠3
副知事は、試掘調査で当該遺跡には希少性がある等の認識を示しているが、試掘の報告書中、当該遺跡の調査結果が記載されている14ページには価値や評価は記載されていない。よって、副知事の認識は誤っている。
また、当時の試掘調査担当者は、センターが事業を引き継いだ当時の事業主体であるA株式会社に対して「記録保存で大丈夫だろう」との評価を口頭で伝えるとともに、令和元年6月11日にセンター職員が関係自治会住民への説明会で同様の趣旨を述べていることから、「記録保存で大丈夫だろう」という評価が引き継がれている。
論拠2、3に対する判断
知事は文化財保護法の解釈運用上、開発事業と埋蔵文化財の現状による保存が両立しないこと、及びその発掘調査の時期が近接ないしは関連するとはいえ、目的、性質は全く異なるものであることに言及したものと解するのが相当であり、センターの手続に整合性がないとはいえない。
また、元々周知の埋蔵文化財包蔵地には文化的価値のある有体物の存在が確認されているのであり、報告書に個別に価値や評価が記載されていないこと及び当時の調査担当者の「記録保存で大丈夫だろう」という発言をもって当該遺跡の価値の有無を判断することは、法令の誤った解釈によるものまたは事実誤認である。
したがって、論拠2、3については、いずれも容認できない。
ウ 論拠4
知事は、埋蔵文化財調査の特性として(中略)そのタイミングとしてこういう事業計画があるということで、その事業者がなさるということだと思うと述べている。この考えはそのとおりであるが、事業が白紙撤回になることもあるというのに、今回の事業者であるセンターが県の予算、つまり税金を使って調査することが問題である。
論拠4に対する判断
論拠1に対する判断のとおりであり、容認できない。
(3) 措置請求についての監査委員の判断
ア 文化財保護法の観点からの違法又は不当性の検討結果
(ア)本件においては、廃棄物処理法第4条第2項の規定により、県には県内の産業廃棄物について適正な処理が行われるよう必要な措置を講じる義務がある。同時に、文化財保護法第3条により県の任務として「文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもってこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。」と規定されている。県は、この2つの立場から、産業廃棄物処理施設を設置しようとする特定の財源を持たないセンターに支援するとしたものである。
(イ)文化財保護法第93条に基づく発掘の届出があった場合、県は予め基準を設けて、次の措置を講じるよう求めている。
(a)本発掘調査:開発事業等に際して影響を受ける埋蔵文化財を事前に発掘調査し、詳細な記録を作成することによって保存を図る措置をとることをいう。
(b)工事立会:工事の施工に際して、原則として当該市町村教育委員会の埋蔵文化財担当の専門職員が立会い、遺構、遺物が確認された場合には、必要に応じて記録を作成する等適切な措置をとることをいう。
(c)慎重工事:周知の埋蔵文化財包蔵地において開発事業等を行うものであることを十分に認識の上、慎重に施工することをいう。
本件において、県は、(a)本発掘調査の実施を指導している。併せて、「重要な遺構・遺物の発見があった場合は直ちに工事を中止し、その保存について地元市町村及び県と協議すること。」との条件を附している。
したがって、本件埋蔵文化財の価値や保存方法は、本調査の結果により最終的に判断されることを前提とし、必要な対応が担保されている。
(ウ)埋蔵文化財の具体的状況を確認するために行う発掘調査は、貴重な国民的財産である文化財の保存を適切に行うこととする文化財保護法第3条の目的に照らして、必要十分であるか否かで経費の妥当性を判断すべきであり、関係事業の成否を理由に判断するべきではない。
本件では、調査能力を有する一般財団法人Bによる適正な積算を基に経費が算出されており、適正な発掘調査が期待されるので、不当とはいえない。
なお、処分場計画のどの段階で調査をすべきかは、一義的に事業者の判断で行われることとなるが、本件においては、センターが一般財団法人Bの業務スケジュール等から総合的に判断している。
また、県が実施時期について妥当と判断したことに関しても、特段の違法又は不当性は認められない。
さらに、仮に他の要因で関係事業が遂行できなくなったとしても、調査結果自体は得られることとなり、無駄とはいえない。
したがって、文化財保護法における県の位置付けからも、請求人の主張する趣旨を含め、不当性は認められない。
イ 地方自治法第2条第14項の観点からの不当性の検討結果
請求人の主張は、周知の埋蔵文化財包蔵地の発掘が関係事業という主目的に付随して行われる従たる行為である以上、主目的が達成されないこととなれば無駄となるので、遂行を妨げる要因がないと明確になるまで当該関係予算の執行を停止すべきというものである。
しかしながら、地下水の流動について、水源地に影響する可能性は否定できるという調査結果が既に得られており、新たな地下水調査により関係事業の遂行が不可能となる可能性についてはあくまでもひとつの見解であり、具体的な科学的知見などの論拠もないことから、容認できない。
地下水調査の結果が出るのを待ってから埋蔵文化財本調査を実施することは、県執行部において選択可能な政策又は方針のひとつに留まるものであって、これを選択しないからといって不当であるとまではいえない。
また、地下水調査に限らず、仮に何らかの事情により関係事業が遂行できなくなったとしても、埋蔵文化財の発掘調査の結果自体によりこれまで不明であった情報が国民の知見として得られることとなり、無駄とまではいえない。
(4) 本件請求に対する結論
以上から、措置請求事項の「すくなくとも、この淀江産業廃棄物管理型最終処分場計画の実施が確定するまでは、予算執行すべきでない。」については、棄却する。
また、措置請求事項の「センターに対しても、埋蔵文化財発掘調査を実施しないよう要請すべきである。」についても、棄却する。