~タイのEC市場について~
こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。
先月は、タイのEC市場についてお伝えしましたが、その中でも順調に成長を続けているのが、フードデリバリー市場です。今回は、タイにおけるフードデリバリー市場についてお伝えします。
【目次】
- タイのフードデリバリー
- タイの主なフードデリバリーサービス
- フードデリバーの問題点
1 タイのフードデリバリー
タイでは、スマートフォンアプリ(以下「スマホアプリ」という。)を使ったデリバリーサービスが流行する以前から、大手ファーストフードチェーンなどはそれぞれが独自に電話やWEBサイトで注文を受けデリバリーサービスを行っていました。
その後、2010年代中頃にフードデリバリーのスマホアプリが登場すると、チェーン店以外のレストランや食堂、屋台などにも手軽にデリバリーを注文することができるようになりました。
2020年に新型コロナウイルスの感染拡大防止のための活動規制によって、在宅勤務の実施、飲食店での店内飲食禁止が実施されると、フードデリバリーの利用件数が急増し、バンコクの道端にはフードデリバリー各社のユニフォームを着たバイクの配達ライダーが溢れるようになりました。
【激しい競争を繰り返すフードデリバリー各社】
タイの商業銀行大手カシコン銀行傘下のカシコン・リサーチ・センターの調査によると、2021年のフードデリバリーの市場規模は、前年の448億バーツ(約1,492億円※)から18.4~24.4%増の531億~558億バーツ(約1,768~1,858億円※)に拡大すると見られています。
興味深いことに、注文件数は新型コロナウイルス流行前の2019年の3,500万~4,500万件から2.7~3.4倍の約1億2,000万件に増加する見通しに対し、注文1回当たりの平均価格は前年から20~25%減少しています。
このことは、在宅勤務をする人が増え、以前に比べてより普段使いする(=日頃食べている食堂や屋台レベルの注文をする)ケースが増えたことを示していると考えられます。(※「1バーツ=3.33円」で算定)
2 タイの主なフードデリバリーサービス
タイのフードデリバリーは、新規参入、事業撤退、統合を繰り返してきましたが、現在の主な事業者は上記の4社になります。
Food panda
「Food panda」は、現在残っているフードデリバリー事業者の中でいち早くサービス提供を開始し、業界で唯一全県(77県)でサービスを展開しています。
Grab
2013年にタイでタクシーの配車アプリサービスを開始した「Grab」は、2018年に買収したUberの東南アジア事業を引き継ぐ形で、フードデリバリー事業に参入しました。元々、バイクタクシーの配車サービスをしていたので、ドライバーの数は他の大手三社の合計よりも多いと見られています。
LINE MAN
日本でも多くの人に使われているメッセージアプリLINEが運営する「LINE MAN」は、「タイのぐるナビ」ともいえるグルメ情報サイトの大手「Wangnai」と提携しているので、業界で一番多くの店舗が登録しています。前述の2社と比べ、登録店舗が支払う手数料が低めに設定されている反面、配送料の設定が高くなっています。
Robinhood
タイ大手銀行のサイアム商業銀行が昨年7月にサービスを開始した「Robinhood」は、同行のデジタルバンキングを利用している飲食店が加盟でき、他社と違って初期費用や手数料がないため、登録店舗の事業者の負担がほぼゼロとなっていることが特徴です。残念ながら、対応言語がタイ語のみとなっているため、現地在住の外国人にとっては利用するためのハードルが高くなっています。
このように各社それぞれに異なる特徴がありますが、マーケットシェアはGrab Foodが市場全体の半分を占め、圧倒的首位の座についています。
【フードデリバリーのマーケットシェア】
3 フードデリバリーの問題点
順調に成長を続けるタイのフードデリバリー市場ですが、問題がないわけではありません。
店舗内の飲食と違って容器を必要とするフードデリバリーの市場拡大は、プラスチック容器の使用量増加につながり、その結果としてプレスチックごみの量が増えてしまう結果をまねいています。
また、価格の30~35%といわれる手数料は、登録店舗の事業者にとって大きな負担であり、飲食店経営者の中には「売り上げが上がっても利益が削られるばかりでやっていけない」と、フードデリバリーアプリへの登録を解除する店舗も出てきています。
業界1位の「Grab Food」と2位の「food panda」は、激しい価格競争を続けており、両社ともに赤字経営が続いていると報じられています。
急激に増えた需要に対するドライバーの質も追いついておらず、配達の品や場所を間違えたり、雑な取り扱いによって料理がぐちゃぐちゃになって届いたり、一方的にキャンセルされたりなど、クレームにつながるケースも増えてきています。そして、そのドライバーも、過去には低い賃金に不満を持った各社のドライバーが集まってデモ活動を行うなど、雇用環境の改善が求められています。
コロナ禍によって急速に拡大したタイのフードデリバリー市場、利用者にとっては低いサービス価格やお得なプロモーションはありがたいことですが、サービス運営者の赤字、登録事業者(飲食店)の重い負担、従業員(ドライバー)の労働環境と、三者が問題を抱えている状態が続いています。
今後は、過剰なサービス合戦を止め、利用者にも適正な負担を求めるなど、業界体質の健全化が更なる市場拡大への鍵になるのではないかと考えます。
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