佐治谷ばなし
【昔話】かにのふんどし
むかーしむかし、佐治の山奥に住んでいる若い衆が、海沿いの村からお嫁さんをもらって暮らしていました。
あるとき、お嫁さんが実家に帰っており、男がその嫁の家に遊びにいくことになったのですが、焦ったのはこの男の両親でした。
田舎暮らしで、めったにひとの家に行くことなんてなかったため、息子は行儀作法をまったく知りません。
嫁の実家で恥ずかしい真似をしないだろうかと案じた両親は、出発の日の朝、大急ぎで息子に言って聞かせました。
「よいか、嫁の家に行ったら、この時期のことだから、かにというものがごちそうにでてくるに違いない。
かにというものは、まずはふんどしをはずして食べるというのが作法だぞ」「それから、嫁の家にいったらお茶を出してくれるだろう。
熱いお茶だからといってフウフウ吹いては行儀が悪い。
たくあんを入れてちょっとかきまぜたらすぐ冷めるから、それからゆっくり飲むのだぞ」男はうんうんとうなずき、嫁の実家に向かいました。
その日の夕方、男が無事到着すると、「さあさあ婿どの、疲れたでしょう。 まずは先に湯に入ってくだされ」と母親が風呂に案内しました。
ところが湯が熱くて熱くてとても入れそうにありません。
そうだ!男は裸のまま台所に飛んでいき、漬け物の大根を2、3本探してきました。
それを湯船につっこんで、ぐるぐるかき回して冷ましていたところを、嫁が見つけてびっくり。
しかたなく、漬け物臭い風呂に、どうにか入れてあがらせたのでした。
「やれやれ、いい湯だったな」男が気分よく一服していると、夕食になってお膳が出てきました。
座についてみると、予想どおり大きなかにが出てきました。
「これだなあ」男は得意気に立ち上がり、おもむろに袴を脱いで、自分のふんどしをはずし、それをきちんとたたんでお膳の横に置き、それからゆっくり、かにのお膳に箸をつけたということです。
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【昔話】にんどうかずら
さて、昔、鳥取のお城の殿様から、さじの大庄屋のところへ、お布令書が配られた。
「このたび、御用これあるにより、“にんどうかづら”の皮をはぎとり、至急に差出すべきこと」と書いてある。
庄屋はこれを読むなり顔色をかえてうなった。
「忍道さまの面の皮をはいで出せえって書えてあるがこれは一大事だ、困った事になったわい」
早速に村の主だった者を集めて相談した。
その頃、村のお寺に忍道と呼ぶ和尚さんが居たからだ。
なんぼ、殿様の言い付けでも、和尚の顔の皮をはぐことは出来んので結局、歎願するより外なしという事になり、揃って鳥取まで出て役人にこのことを話して歎願した。
すると、役人はプーッと吹き出して、 「これ、これ、心得ちがいであるぞ、坊主の皮ではないわ、忍冬という葛があるであろうが、その葛の皮をむいて出せえと言ったのじゃ」と言うことで、一行やれやれと安心したということである。