教育委員リレーコラム

  

切れ目のない教育接続(若原委員)

若原委員  鳥取県教育委員 若原道昭

 私が勤務先の大学でこの数年間とくに意識して進めてきたのは、高校と大学、大学と社会(自治体・企業・地域等)の教育接続です。大学の立場からは、従来はややもすると高校を単に学生の供給源とだけ考え、社会を学生の供給先・就職先とだけ考えがちでした。しかし近年では、高校と社会をともに大学教育における人材育成のための協働のパートナーと考え、育成すべき人材像を共有してそれを大学のカリキュラムに反映させていく必要があると考えられるようになってきているのです。
 このように高校・社会との接点を強く意識する教育が大学で行われるようになった背景には、数字の上ではほぼ全入時代を迎えている現在の大学の学生たちの学修へのモチベーションの低下が危惧されていることや、他方で将来予測困難な時代に活路を開く原動力となる主体的能動的な人材の育成が要請されていることがあります。学生が「実際に何を身につけ何ができるようになったか」という大学教育の成果が一段と求められるようになっています。そのために、これまでのような「知識・技能」の蓄積に重きをおいた教育ではなく、獲得した知識・技能を使いこなして自ら課題を発見し、その解決方法を探求し、解決に向かって多様な他者と協働することができるコミュニケーション能力やチームワーク能力、同時に問題解決のための思考過程を明確に説明できるプレゼンテーション能力といった総合的な問題解決能力を育てる教育が重視されるようになっているのです。
 このような、学生を本気にさせ主体的な学びを引き出して成長をうながす教育は、一方的な講義だけでは実現することはできません。学生は授業を聞いているだけで成長する、というものではありません。こうして今、従来型教育の限界を超えようするアクティブラーニング、対話型学習、PBL(課題解決型学習)、体験型学習、ICT利活用教育等の意義が注目されて積極的に導入が図られ、またそのためのFD活動やラーニングコモンズのような環境整備がすすめられています。
 そしてこのような教育は、高校や社会との協働なくしては十分な成果を上げることができません。例えば大学と社会との双方向的な連携協力について言えば、フィールドワーク、キャリア教育やインターンシップだけでなく、社会現場から課題を見つけてその解決に向けて企画・提案し実践するPBL型アクティブラーニングがあります。
 本学の例でも、地元自治体や産業界との連携、ボランテイア活動(東日本大震災、ネパール大地震復興教育支援等)、国際交流等、大学が保有するシーズと地域課題のマッチングを重要視した取り組みがあります。今後このような高校―大学―社会の連携・接続は一層その重要度を増していくでしょう。

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