教育委員リレーコラム

  

コラム(坂本委員)

坂本委員 鳥取県教育委員会委員 坂本トヨ子
 「お客様、こちらの前菜は◯◯県で採れたハーブを餌として育てられたニワトリを使った一皿でございます。また、こちらは今朝採れたて、〇〇町で大切に育てられた野菜で作られたサラダでございます」
 今、都会の高級レストランでは、こうした前置きが各料理で語られていて、これがまた評判となって美食家たちが押し寄せていると聞きます。
 これがもうすぐやって来るオリンピックへ向けた、各店の生き残りを賭けた手段の1つとなりつつあり、近い将来ごく当たり前の風景になるという予感を感ぜずにはいられませんでした。
 まさに、時代は地方に興味を持ち、農業の価値を再認識し始めたということでしょう。

 さて、私は、健康維持、認知予防の為にと「散歩」を心がけております。
 山に囲まれた我町は夕焼けの美しさを見られないのが惜しいのですが、この夏から初秋の暑い季節だけは西日の陰るのが早いことほど有り難いものはありません。アップダウンが激しい田んぼ道は、知らず知らずに有酸素運動をさせてくれますし、深呼吸するたびに草花の香りやそよ風や川の流れが五感を刺激してくれます。
 棚田に水が張られ、太陽や月が映る川面の景色を楽しんだ頃から、稲穂が垂れて黄金色が波打ち、ヒグラシやウマオイが賑やかに季節の移り変わりを告げ、「彼岸花や中秋の名月」至る所に日本の四季や、二十四節気、七十二候を楽しむことができるのです。
 この美しい景色は、地元農家が自然との折り合いをつけながら水の利用に工夫しつつ、何世代にも渡って延々と維持管理してきた文化であり、勤勉さと生き様を現しているのだと畏敬の念で眺めます。
 そして、まさに都会の人々が待ち望んでいる『地方』がここに、確かに存在していると実感します。
 景色は産業によって作られると言われますが、都会に出た若者も地元の人間も、この美しい景色に気付いて誇りを持ち、農業の可能性と充実感を味わえるような時代になればと願わずにはいられません。
 眼下に静かに走る一両編成のディーゼルを見ながら、この長閑な自然の中、次世代を担う子供たちが大きな財産を頂いていることに感謝し、私たちも先を生きる者としての役目を思う秋となりました。

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