教育委員リレーコラム

  

サンデル教授といっしょに考えた

 
 鳥取県教育委員長 中島諒人

「ハーバード白熱教室」で有名になったサンデル教授が、日本の中学生や大人とともに、いじめを巡って議論を進めるテレビ番組があった。

番組はアニメーションをみんなで見ることから始まった。密かにいじめが行われているクラスに一人の転校生が加わり、いじめに加担しなかったことから新しい標的にされるが、親にもそのことを言えないという内容。サンデル氏が、中学生にいろいろな質問をぶつける。大人の側には、教育関係者や子どもの頃にいじめられたタレント・スポーツ選手もいる。その後別のアニメーションになり、今度は一人の乱暴な生徒の出席停止を巡る議論となり、大人のいじめ体験なども語られる。
続いて諸外国のいじめに対する対応の紹介に移る。校内での身体接触をすべて禁じる国、いじめ禁止法が制定されている国、いじめに対して子どもや保護者の通報で警察が捜査をする国などについて語られ、それに基づき議論が深められる。
話が最もホットになったのは、いじめ禁止の法律化について。賛成する代表的意見。「いじめられている子どもの苦しみは計り知れない。法律の力で被害者を救済するべき。」なるほど、その通りだと思う。反対の意見。「法律が友人関係の中に、人の心の中に入ってくることには違和感がある。いじめはもちろん悪いが、それは法律などに頼らないで自分たちの力で解決したい」これもすばらしい意見だと思う。いじめという悪に対して、どのような対応を選ぶかは、一人ひとりの人間観によっても変わるし、社会の考え方や歴史によっても変わって来る。一つの考えだけが正しいということにはならないだろう。
ここでサンデル氏は、全然違った切り口の問いを中学生に投げる。「あなたたちにとってどんな学校がいい学校ですか?」それまでとは真逆の思考が求められた。子どもたちから活発な意見が出る。それを受けて、最後の質問、「どんな社会がいい社会だと思いますか?」

 

いじめも体罰も絶対に許されない。いじめをしたのは誰か、体罰をしたのはどの先生か、それを確認することはもちろん必要。しかし、それだけで本当に問題が解決するのか。誰か“犯人”を見つけても、形を変えて別の“犯人”が現れる。現在の複雑な社会状況の中、解決困難な問題に突き当たると、我々は善と悪の単純な二色分けで物事を把握したくなる。が、残念ながらそれでは問題は繰り返される。
「どんな学校が理想ですか?」「どんな部活が理想ですか?」それをいつも考え、子どもたちと大人たちで話したい。背景には、こんな問いもなければならないだろう。「どんな社会で、どんな風に生きたいですか?あなたや周りの人たちにとって、どんな社会が幸せですか?」
答えのない問いに粘り強く向き合い続ける基礎的な力、それを育むことが現代の教育の役割かもしれない。その力とは、いわゆる学力だけでない。

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