これは初めて1コママンガを描いてみようと思っている人、1コママンガを描いているがどうしても新しいアイデアが浮かばなくてきっかけがつかめない人たちのための発想法やまとめ方のアドバイスです。これを基本にアナタならではの世界を作ってみて下さい。自分の中にある未知の扉を開くことができるでしょう。
まんが王国とっとり国際マンガコンテスト審査員
京都精華大学 名誉教授 篠原ユキオ
1 すぐ思い浮かぶものは一度捨てること
テーマを与えられてすぐに思い浮かぶものは他の人も同じように思い浮かべていると考えて下さい。
最初に出たモノはアイデアの入り口でまだまだ先があるものだと思ってください。だからそれをすぐに仕上げるのではなく、それも含めて同じテーマで最低10本以上のアイデアを絞り出してみて下さい。そしてちょっと時間をおいて今度は読者の立場で全部を見直してみましょう。
最高と思っていたものがそんなに面白くはないということに気付いたり、逆にそれほどでもないと思っていたものがちょっとした描き方の変化で面白くなる事に気が付いたりします。
焦らずにアイデアを熟成させることが大切です。
2 一番遠いところのモノと繋いでみること
例えば『オリンピック』というテーマを与えられたとしましょう。
この時、多くの人が思いつくのは『金メダル』『表彰台』『聖火ランナー』『五輪マーク』という象徴的なキーワードと絵柄でしょう。そしてそれに少し演出を加えて、ちょっと変わったメダルや表彰台や5つの輪を考えたりします。
例えば賞味期限のあるようなメダルとか、仕掛けのある表彰台とかですね。
しかしそれらの多くはどこかにあったなあ…という『よくある漫画』で終わるのです。
そこで今度は、全くオリンピックとは関係のなさそうな、できれば時事的なモノ、例えば『弾道ミサイル』『濃厚接触者』などという、テーマと全く関連の無さそうなモノを選んでそれとくっつけてみるのです。そこに今までになかったタイムリーな作品が生まれます。
3 たくさんの人が知っている知識や情報を組み合わせること
たとえ自分が面白いと思っていても見る人に伝わらなければ自己満足の作品になってしまいます。ごく限られた人たちしか知らない話題や情報を扱っても伝わりません。
自分の知っていることはみんなも知っていると思い込んでいることがありませんか?
1コマ漫画は1枚の絵で全てを表現するものですから登場人物の説明や状況の説明も一目でわかることが大切です。みんなが知っている人や、ニュース、情報を扱うことです。
お父さんがスイカを食べていて「これには種がないナア」というのは普通ですが、マリックさんが同じことを言ったらちょっと面白い場面ができますね。
4 いくつもの視点を持つこと
小さな子どもに絵を描かせると正面を向いた人物が並ぶ平たんな絵になることが多いですね。小さい頃は2次元的でしか描くことができないからです。しかし年齢が上がってくるといろんなアングルを考えるようになります。遠近法を使って3次元的な表現ができるようになります。アップにしたりロングにしたり、ちょっと画力に自信がある人は鳥瞰図やローアングルで描いてみたり…。
表現方法の幅が広がってくると視点をどこに置くかで面白さが変化することに気がつきます。
自分のアイデアをいかに描けば最高のものになるのかを何枚も描き比べてみることが大切です。
5 しゃべりすぎないこと
これは特に若い人たちの作品によく見られることですが画面にいろんなものを描き込みすぎるという作品が見られます。もちろんその場の雰囲気を盛り上げるための小道具として描き込む場合もあるのですが余計なセリフや擬音や小道具など、それが多すぎるとメインのアイデアがぼやけてしまい、ただ単ににぎやかでうるさいだけの作品になってしまいます。
脇役が目立ちすぎてはいけないという事ですネ。
その作品の面白さを最大限に生かせる必要条件をひとつひとつ吟味して画面を構成することが大切です。
6 雰囲気だけで描かないこと
作品を描いている本人は面白いと思っていることでもそれが絵の中にきっちりと反映されていないと見る者には伝わりません。もしかすると作者もそのポイントがはっきりしないまま雰囲気だけで描いてしまっているのではないかと思われる作品があります。
風景画や人物画などを描く時には、こんな雰囲気が好きとかキレイだなあという、気分だけで描けますが、1コマ漫画の場合ははっきりとした作者自身の主張が組み込まれていないといけません。
なんとなくこんな雰囲気で…というようなイメージイラストは1コマ漫画としては中途半端に終わります。
動物園のイベントなどでチンパンジーや象も絵を描いたりしていますが、漫画は描けません。
7 そっくりだけど全く違うものをくっつけてみること
形、名称、状態、などがそっくりなんだけど、実は全く違う、というものを一つの画面にくっつけてみてください。
『ネズミとマウス』『木の年輪と水面の波紋』『聖火とソフトクリーム』などはそうですね。
こういう組み合わせで他の人が思い付かないようなものを探してみるといいのです。
実はこれが1コマ漫画作りで最も簡単で奥の深い発想法なのです。
8 絶対に有り得ないけどあったら面白いと思うものを考えること
「事実は小説より奇なり」とはよく言われる言葉ですが、漫画の場合は現実の生活の枠をもっと飛び越したものを自由に描くことができます。
現実にそういうことが起こる確率は限りなくゼロに近いけれども、もしこんなことが起こったとしたら面白いなあと思うことを絵にするのです。
フランスの一コマ漫画家・サンペの有名な作品にこんなのがあります。
広い十字路の真ん中で台の上に立った交通整理の警官が、困ったなあという顔で道路を見下ろしています。
道路にはたくさんの車が一面に散らばっています。道路の端には一台のトラックが止まっています。道路を曲がる時、ミニカーを大量に詰めた箱を荷台から落としてしまい無数のミニカーが一面に散乱している絵です。本物の車を整理する警官がおもちゃの車が散らばった道路を前にして唖然としている絵です。
こんなことは実際には起こりえない『偶然』なのですが、こんな場面を頭の中で作り上げることが漫画家の作業なのです。
以上8つの発想の留意点を挙げました。
もちろんこれらの他にたくさんの発想のパターンがあります。また、それぞれは単独ではなく組み合わせて考えることでより深みのあるものになります。
そして描く人それぞれのの趣味やこだわりを付け加えることで個性的な1コママンガを生み出すことが出来ます。
これを参考に魅力的な一コママンガを考えてみてください。
今年も皆さんの傑作を楽しみにしています。