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「妹は、ごく当たり前の生活をしていた平凡な女性でした。しかし、他の国に非人道的に連れて行かれ、今日まで消息も分かりません。皆さんの家族が同じ被害にあった場合のことを想像してみてください。48年を超える私たちの苦しみを感じていただけるのではないでしょうか。皆さんには、家族と過ごすことを当たり前と思わず大切にしてほしい。家族で一緒に過ごすことの幸せを考えてほしい。そして、皆さんが被害者や残された家族の気持ちを理解し、拉致問題に関心を持ち続けてくださることが、私たちの大きな支えになります。」
これは、本県の拉致被害者の家族の言葉である。
北朝鮮当局によって行われた日本人の拉致により、多くの家族が、そのかけがえのない大切な人を突然に奪われた。私たちが暮らすこの鳥取の地においても、この許されざる国家的犯罪行為である人権侵害が発生したことを決して忘れてはならない。
拉致問題等の発生から既に長い年月が経過し、拉致被害者本人もその家族もともに高齢化が進み、中にはその解決を切望しながら志半ばにして亡くなった方もある。拉致問題等の解決には、もはや一刻の猶予も許されず、また、その全面解決がなされるまで、決して人々の間で風化することがあってはならない。
私たちが希求するのは、拉致被害者全員の一刻も早い帰国である。そのために、私たちは、県民一丸となって、拉致問題等の早期解決に向けた思いを共有し、拉致問題等に関するたゆまぬ啓発など一人ひとりが今できることに取り組み、もって一層の機運醸成を図り、一日も早くその進展につなげることを決意するものである。
ここに、拉致問題等の早期解決を目指す取組を県民挙げて推進することを宣言し、この条例を制定する。
第1条(目的)
この条例は、北朝鮮当局による国家的犯罪行為である日本国民の拉致の問題及び北朝鮮当局による拉致の可能性を排除できない事案の問題(以下「拉致問題等」という。)について、県の責務並びに学校その他の教育機関及び警察の役割を明らかにするとともに、その啓発等を県民挙げてなお一層推進することにより、県民の意識の高揚及び解決に向けた機運の醸成を図り、もって拉致問題等の早期解決に資することを目的とする。
第2条(県の責務)
県は、拉致問題等の啓発について、国及び市町村と連携を図りながら、県民が拉致問題等に関する関心及び理解を深めるための取組を持続的に行うものとする。
2 県は、市町村が行う拉致問題等の啓発に関する取組に協力するものとする。
第3条(学校その他の教育機関の役割)
学校その他の教育機関は、その教育活動において、発達段階に応じた人権教育に取り組むとともに、拉致問題等に関する関心及び理解を深めるための啓発の推進に努めるものとする。
第4条(警察の役割)
警察は、関係機関と連携を図り、新たな情報の収集等所要の捜査を積極的に行うものとする。
第5条(県民の協力)
県民(県内に所在する事業者を含む。次項において同じ。)は、拉致問題等に関する関心及び理解を深めるとともに、この条例の目的を達成するために県が実施する取組に協力するよう努めるものとする。
2 県民は、拉致問題等の被害者又はその可能性のある者に関する情報を得たときは、速やかに、警察本部又は警察署に当該情報を提供するものとする。
第6条(拉致問題等啓発月間)
県は、この条例の目的を達成するための取組を重点的に実施するため、鳥取県拉致問題等啓発月間を設ける。
2 鳥取県拉致問題等啓発月間は、10月1日から同月31日までとする。
第7条(国等への働きかけ)
県は、拉致問題等の解決に向け、必要に応じて国等に対する適切な働きかけを行うものとする。
第8条(職員の研修)
知事、教育長及び警察本部長は、その職員に対し、拉致問題等に関する研修その他の拉致問題等に関する理解の増進を図るための措置を講ずるものとする。
第9条(財政上の措置)
県は、この条例の目的を達成するための取組を実施するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
第10条(公表)
知事は、毎年度、拉致問題等の早期解決を目指す取組の実施状況を取りまとめ、公表するものとする。