2020年4月 タイ王国及び東南アジア諸国の動向

タイ王国及び他の東南アジア諸国の経済・産業動向、社会動向報告書

 こんにちは。鳥取県東南アジアビューローの辻です。

 世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、タイ国内で初めて感染者が確認されたのは1月13日のことで、中国湖北省武漢市から観光でタイを訪問した中国人女性でした。その後、1月22日にタイ人では初めて(外国人含め4人目)の感染者が確認され、3月15日に累計の感染者が100人を超えてからは急速に感染が広がり、3月26日にはついに1,000人を超える事態となりました。その後、政府は3月28日に非常事態宣言を発令し、様々な規制が行われたことが奏功し、4月30日には新規感染者が7人(累計感染者2,954人、死亡者54人、隔離治療中213人、回復者2,687人)まで減少しました。

 また、タイの現況は以下の通りです。

外出規制

22時から4時までは外出禁止。

小売店、飲食店の状況

デパートは閉鎖中、スーパーマーケットは従来どおり営業中。飲食店は1卓に1人ずつやカウンターに衝立を立てるなど、距離を設けることを条件に店内飲食可能(酒の提供は禁止)。

工場の稼働

順次稼働再開。

旅客、物流の状況

5月末までタイ行の旅客機の飛行が禁止されているため、旅客の入国は事実上不可能。タイから日本への郵便は船便のみとなっている。影響が無いとはいかないが物流の寸断は起こっておらず大きな混乱には至っていない。

 さて、今回は4月14日に開催されたMEDIATOR CO., LTD.主催、SMBC(三井住友銀行)の長谷場 純一郎氏によるWebセミナー「新型コロナウイルスによる日タイ経済への影響と今後」の内容を中心に、タイ国内の状況や、タイ政府による対策・施策についてお伝えします。

1.タイの新型コロナウイルス感染状況とタイ政府の対応

 感染者数の累計が100人を越えた3月15日以降、タイ政府やバンコク都知事、各県知事が様々な施策、規制を打ち出してきたが、大きな規制の動きとしては3月22日のバンコク都知事による食品・生活必需品の販売店(スーパーマーケット・コンビニなど)・薬局以外の小売業の閉鎖、飲食店の営業規制(デリバリーと持ち帰りのみ対応可)と、4月4日のタイ行き旅客機の飛行禁止の2つ。

 3月28日の非常事態宣言発令時には、特に大きな動きはなかった。

 国内の感染状況は3月22日の新規感染者188人がピークと見られ、それ以降新規感染者数は減少傾向、回復者が増加傾向にあり、4月12日には回復者の累計が入院中患者を上回った。

タイ国内の感染者数の推移と主な動き

日付 感染者数※ 死亡者数※ 国内の主な動き
新規感染者数 回復者数※
3月15日 114 1 感染者数累計が100人を突破
32 37
3月16日 147 1 タイエアアジアが日本路線を運休(6月16日まで)
33 38
3月17日 177 1 ソンクラーン(タイ正月 4月13日~15日)休暇延期決定
30 41
3月18日 212 1 学校休校(オンライン授業開始)
バンコク及び周辺件の娯楽施設閉鎖
35 42
3月22日 599 1 バンコクでスーパーマーケット、コンビニを除く小売業、テイクアウトかデリバリー以外の飲食店を閉鎖(4月30日まで)
感染に対する陰性証明書がない外国人の入国禁止
タイエアアジアが国際線全線を運休
188 45
3月23日 721 1 陸路による全ての国境を閉鎖(物流は条件付で通過可能)
122 52
3月25日 934 4 タイ航空が欧州路線以外の国際線を運休
全ての国立公園を閉鎖
107 70
3月26日 1,045 4 県境に検問を設置
長距離バスチケットの販売を停止(発券済み分は利用可)
111 88
3月28日 1,245 6 非常事態宣言
109 100
4月1日 1,771 12 タイ航空が欧州路線のほぼ全線を運休
タイエアアジアが国内線を全線運休(4月30日まで)
タイ国鉄が長距離路線のうち22路線を運休
120 342
4月3日 1,978 19 夜間外出禁止令(22時~4時)発令
103 581
4月4日 2,067 20 タイに向けた旅客機の飛行禁止(4月30日まで)
89 612
4月10日 2,473 33 バンコクとチェンマイ県で酒類販売禁止(4月20日まで)
プーケット県が空路による出入りを禁止(4月30日まで)
50 1,013
4月12日 2,551 38 回復者の累計が治療中患者を上回る
33 1,218
4月20日 2,792 47 バンコクで酒類の販売禁止を4月30日まで延長
27 1,999
4月27日 2,931 52 非常事態宣言を5月31日まで延長
タイに向けた旅客機の飛行禁止を5月31日まで延長
9 2,609

※累計の数値 (出典:タイ保健省)

2.タイ経済への影響

 2019年通期のGDP成長率が+2.4%だったのに対し、2020年の成長率について、コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、金融各機関は以下の通り数字を発表しており、民間の調査会社では機関によっては-6%より低い数字を予測するところもある。

  • 世界銀行:-3.0%(悲観シナリオ -5.0%)
  • タイ中央銀行:-5.3%
タイのGDP成長率

(出典:国際通貨基金)

 バンコク日本人商工会議所、JETROによる調査(3月9日~13日に実施)では、約8割の日系企業が「マイナスの影響がある」と回答。これは製造業・非製造業共にほぼ同じ数字となっており、業種に関わらず大きな影響を受けていることを示している。

大きくマイナス 多少マイナス 影響なし 多少プラス 大きくプラス 分からない
全体552社 175 265 44 12 2 54
31.7% 48.0% 8.0% 2.1% 0.4% 9.8%
製造業285社 91 136 25 7 1 25
31.9% 48.0% 8.7% 2.4% 0.3% 8.7%
非製造業267社 84 129 19 5 1 29
31.5% 48.1% 7.2% 1.9% 0.4% 10.9%

(出典:JCC新型肺炎の影響に関する緊急アンケート結果)

 タイ商工会議所大学が発表している消費者信頼感指数は、米中貿易摩擦の影響で昨年から低調だったが、新型コロナウイルスの影響でさらに急落し、2020年3月は50.3(100以上楽観的、100以下悲観的)ととなり、かなり悲観的な結果となった。

 タイ経済は主に貿易とサービス業によって支えられている(稼いでいる)が、貿易のメインである米・中・日への輸出は、昨年からバーツ高の影響で悪かった。2020年2月の輸出額は、まだそれほど大きな影響はなく、+0.3%だったが、2020年はうるう年であるため、1日分を3%と考えると、実質マイナスである。

タイの主な輸出相手国・金額の増減(単位:百万バーツ)

国名 2019年2月 2020年2月 増減
1 アメリカ 67,876 76,883 +13.3%
2 中国 71,994 67,543 ▲6.2%
3 日本 67,897 57,799 ▲14.9%
世界全体 620,181 622,018 +0.3%

(出典:タイ商務省)

 ASEAN向けの輸出も2019年はバーツ高の影響が大きく、相当悪かった。前年比で-10%前後。2020年は2月の時点でまだ大きな影響は見られないが、これから顕在化していくものと思われる。

タイからASEAN諸国への輸出額(単位:百万バーツ)

国名 2019年 2020年 前年比
2月 1-2月 2月 1-2月 2月 1-2月
シンガポール 24,420 42,272 29,608 56,906 +21.2% +34.6%
ベトナム 31,976 61,948 28,616 54,091 ▲10.5% ▲12.7%
インドネシア 24,293 48,096 25,070 46,120 +3.2% ▲4.1%
マレーシア 25,668 55,653 21,007 43,545 ▲18.2% ▲21.8%
カンボジア 15,020 33,295 17,894 36,210 +19.1% +8.8%
フィリピン 17,275 36,707 17,721 34,238 +2.6% ▲6.7%
ミャンマー 11,031 22,985 11,904 23,010 +7.9% +0.1%
ラオス 8,719 19,342 9,228 19,212 +5.8% ▲0.7%

(出典:タイ商務省)

 もう一方の稼ぎ口である観光産業については、外国人観光客の4分の1を中国人が占めているため、貿易よりも早く影響が出始めている。第一四半期の観光収入は39.9%減と低迷しており、今後も悪化することが確実である。

利用者がほぼいないため、店舗が閉鎖されている免税店エリア

利用者がほぼいないため、店舗が閉鎖されている免税店エリア

 バンコク・スワンナプーム空港の国際線到着数は2月が4割減、3月が4割減、4月はほぼ10割減となっている。(※4月4日以降、外国からの旅客機の飛行は禁止されている)

バンコク・スワンナプーム空港国際線到着者数

2019年 2020年 前年比
1月 1,865,929 1,854,370 ▲0.62%
2月 1,754,425 978,662 ▲44.22%
3月 1,680,449 334,881 ▲80.07%
4月※ 547,729 1,478 ▲99.73%

※4月11日まで (出典:タイ観光スポーツ省)

3.タイが経験した過去の危機と対応(過去と今、何が同じで何が違うのか?)

過去にタイを襲った危機的状況と対応

1997年 アジア通貨危機
銀行の国有化、増資。タイ側株主の同意が得られることを条件に、外資が奨励企業の資本の100%まで保有することを認められた。
2008年 リーマンショック(金融政策は今回のコロナ対策と似ている)
株式投資対策(長期投資信託等への税額控除の拡大等)、企業融資の拡大、政策金利の引き下げ(3.75%→1.25%)など。
2011年 大洪水(労働者保護の観点で今回の参考になる)
被災家庭へ5,000バーツ(≒16,500円)支給、被災企業に対し従業員を解雇しないことを条件に従業員一人当たり2,000バーツ(≒6,500円)を補助(3か月間)。被災企業は労働者保護法の規定により、自宅待機従業員に対して給料の75%を支払ったケースが多く見られた。

今回のコロナウイルス感染拡大に伴う政策

  • 社会保険料の支払期限の延長、料率変更
  • ビザの期限延長と90日レポート免除
  • BOI法人所得税の「免除恩恵使用申請書」提出期限延長
  • 定時株主総会の開催日延期を容認
  • 一部の取引の源泉徴収率を軽減
  • 社会保険対象外のフリーランス等への現金支給
  • 個人所得税免除・失業者への社会保険加入者
  • 税金の支払の延長

過去の事案とコロナの違い

  • 2011年の大洪水は、甚大被害の地域と時期が限定的(アユタヤ県、2~3か月)で、乾季に入れば復旧の見込みが立つ、リーマンショックは経営破綻からの不況だったため、影響の大きさが予測できた。今回はいつ終わるか(収束するか)が見えないのが最大の違いで、例えタイ国内で封じ込めができた=グリーンゾーンになったとしても、他国で感染が続く=レッドゾーンである限り、貿易とサービス(観光)は影響を受け続ける。
  • 貿易の相手国や世界各国全体の状況が大切であり、世界全体がグリーンゾーンになることが本当の終息と言える。

4.現地メディアの報道から

  • 銀行が破綻した1997年のアジア通貨危機と違って、今回は銀行が元気なので、積極的な融資に対する優遇政策などが期待できる。
  • 経済に与える影響の大きさは、アジア通貨危機とリーマンショックが同時に起きた規模、感染症でいうと、2002年のSARSや2009年の新型インフルエンザと比べがちだが、100年前に猛威を振るったスペイン風邪の規模と思われる。(スペイン風邪は当時の日本の人口5,500万人に対し、2,300万人が感染、39万人が死亡している)
  • 今後、終息の兆しが見えても第二波、第三波が来る恐れもあり、まだ安心はできない。
  • 現在、外国人のタイ入国には次の3つの条件が課せられている。今後、世界的に収束に向かったとしても、免疫証明書などの提出が求められる可能性があり、観光産業は大打撃を受ける。
    1. ワークパーミット(労働許可証)取得者であること
    2. タイの在外公館発行による入国許可書
    3. 飛行可能健康証明書(英文)

5.まとめ

 事業者向けの具体的な支援策はまだ発表されていない。洪水時の対策を参考にすると、過度な期待は禁物。今後の経済への影響は、理想的には外出規制などから開放された際の内需が盛り上がり、回復の早かったタイへのリスク分散の投資誘致が期待されるが、まずはいつ非常事態宣言が解除されるかが注目されている。

 一方で「コロナ前」と「コロナ後」の世界が変わることを受け入れなければならない。

  • オフィスビルなどの大規模開発は減る?(セミナー会場、事務所にかかる経費は必要なくなる?)
  • リモートワークの普及により、都心に住むメリットが問われ、郊外に住む人が増えるのでは?(郊外の住宅開発が進むのでは?)
  • 駐在員の必要性も問われる?
  • ⇒日本人でなくとも、管理能力のある人材であればいいのではないか。

    ⇒未来を見据え、個人の能力を鍛えることが重要になってくる。

    ⇒管理職の管理能力が問われてくる。

    ⇒年功序列ではなく、より能力重視でフラットな世界になるのでないか。

  • タイ語メディアでは、オフラインでのグローバリゼーションが減る、もしくは無くなるのでは?今回のマスク不足などをきっかけに、色々な産業で自給自足の促進のきっかけになるのでは?とみられている。

6.Webセミナー受講者からのQ&A

Q.今後の日系企業の流れ

A.ものづくりにおいてはリスクの少ない国がいい。周辺国より先にコロナの抑え込みに成功すれば、拠点としての信頼感が圧倒的に増し、再評価されるのではないか。

Q.政策金利は現在の0.75%が底?日本のようにゼロ金利政策をとる可能性は?

A.ゼロ金利政策の可能性もある。報道を見る限りでは更に下がる可能性もある。

Q.中国との貿易はストップするのか?

A.貿易はストップしない。観光については、中国の感染状況が改善しなければ、止まるかもしれない。

Q.世界の自動車生産量は減るのか?

A.今年は減るだろう。タイにおいては、今後ライフスタイルとして在宅勤務が定着し、郊外在住者が増えれば、移動手段としての車が必須となる。タイ人は、自然の中で広い家に住むことを好むため、郊外在住者が増え、自動車販売台数が増える可能性はある。

Q.財政への影響は?

A.財政は厳しいが、タイのGDPに対する債務比率は50%と低いため、借金をできる余裕は日本より大きい。

Q.国境SEZなど、国が推し進める開発について

A.EEC開発を止めることはない。CLMVとのMOUにもとづいて外国人労働者を受け入れているので、コロナ騒ぎで帰国した労働者も戻ってくるだろう。国境SEZ開発については、日本企業はまだほとんど入居していない。元々あまりうまくいっていないので、影響はすくないのではないか。

Q.バーツ安はこのまま進むか?

A.基本的にはこのままバーツ安進行が続く。バーツ高にふれる要素は今は考えにくい。去年や一昨年は周辺国との比較において、まだましだからバーツ高が進んだ。

Q.飲食・サービス業の経営側への補償について

A.洪水の際の、従業員一人当たり2,000バーツ(≒6,500円)が目安になると思われる。補償が出るとしても、十分な額ではないと思われるので、あまり期待しないほうがいい。

7.あとがき

 冒頭でもお伝えしました通り、タイでは様々な規制がされましたが、その効果があらわれて感染者数を減少させることに成功しています。5月に入ってからは規制の一部が解除され、街中は徐々に活気を取り戻しつつありますが、同時に第二波、第三波が派生することも心配されています。政府は今後の感染状況に応じて、5月中旬に新たな基準を発表するとしています。現在、日本-タイの往来はできない状況にありますが、一日も早く復旧することを願うばかりです。

県内企業の皆様への現地情報のご提供について

タイの最新の現地情報については、以下にお問合せください。

鳥取県東南アジアビューロー 担当:辻 三朗 (TSUJI SABURO)

TEL/FAX:+66-(0)2-260-1057+66-2-260-1057
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鳥取県商工労働部通商物流課 担当:村上

TEL:0857-26-76600857-26-7660
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タイを中心に、ベトナム・インドネシア・インド・メキシコにて主に日系中堅・中小企業様の海外進出や進出後の会計税務法務を中心とした運営支援業務を行っております。

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