先鋒戦
先攻:御露
臆病もいっそひかりになればいい春雨サラダの卵みたいに
後攻:夜型
一人旅雨天決行する朝の特急券に夏が香った
講評 大辻隆弘審査員
『御露』は、自分の心の陰りみたいなものをサラダの卵に例えた、ちょっと陰影のある作品でとても素敵だったと思います。
『夜型』の作品は、名詞がすごくリズミカルに響いていて、その気持ちが、夏休みの朝の「これから何でもできる」という万能感につながっていくという所に説得力があったと思いました。
ちょっと陰りのある意思と、元気な意思が伝わってくる対照的な対決で面白かったです。
中堅戦
先攻:御露
私だけを見てるあなたが好きだった。パックジュースがべこりと凹む
後攻:夜型
「人見知りなのよあの子」と言われても君に寄り添う象でありたい
講評 穂村弘審査員
どちらも魅力的な歌でしたね。「人見知りなのよあの子」を括弧に入れて、発話者は誰かわからないけれども状況を説明してくれるような、そんな情報の処理の仕方がすごく的確ですね。唐突な象もユーモラスで安心感がある感じがして、いいなと思いました。
「パックジュースがべこりと凹む」という、この「パ」「べ」「へ」と、似た音が3つ来るんですが、あれがへこむときの音って確かに、1語で言えば「べこり」なのかもしれないけど、その中にもう少し響雑音というか、ズレた音が含まれているような感じがする。それがこの「パ」「べ」「へ」という3つの音の重なりで表現されるような気がして、音の魅力もあって、迷いましたがこちらかなと思いました。
大将戦
先攻:御露
教科書の地図の小さな王朝へ蝿は君主のように降り立つ
後攻:夜型
小石蹴るほどにやわらかく春を抱く在来線の旅の匂いの
講評 江戸雪審査員
「小」という題から、それぞれ「在来線の旅」「地図」という言葉が出てきているのが面白いなと思って2首を読んでいました。
『夜型』の方は、「旅の匂いの」などが「やわらかく」に全部繋がっていくという作者のコメントがありましたが、そこの意図が少し読みにくかったです。結句「匂いの」の「の」が、もうあとひと工夫欲しかったかな。内容にはすごく夢があって、これこそ本当に青春18切符で旅に出るときの感じが出ていていいなと思いました。
『御露』の方は、蠅を君主に仕立てたというのが広大で、すごくいい。「王朝」からどんどん想像を膨らませていって、最後に「君主」しかも「降り立つ」という、一貫したイメージの繋ぎ方がうまいなと思いました。