防災・危機管理情報


 大辻隆弘審査員、穂村弘審査員、江戸雪審査員の講評は、大会当日、会場でお話しいただいた内容を掲載しています。

 大森静佳審査員、小島なお審査員の講評は、書面でお寄せいただいた内容を掲載しています。

  

特別賞 大辻隆弘審査員選 講評

受賞作品

一つだけ自転車のある駐輪場いつ明けるのかわからない夜

 神奈川県立光陵高等学校 2年 洲﨑 大知

講評:大辻隆弘審査員

 駐輪場は大体、学校の端っこにあって、周りが木々に囲まれていたりする静かなところです。そんな駐輪場の夜のシーンです。もう自転車はみんな帰ってしまっている中で、乗り捨てられたのか、故障したのかはわかりませんが、広い駐輪場の中に、たった一つだけ自転車が置かれているという情景を詠った歌なんですよね。

 「いつ明けるのかわからない夜」、ここがすごく良くて、駐輪場は朝になると生徒の皆さんが入ってきて、ワイワイガヤガヤしますが、今こうして一つだけぽつんと自転車が置かれている、がらんとした夕闇に囲まれている駐輪場を見ていると、「もう永遠にそんな賑やかな朝が来ないんじゃないか」「この静寂は永遠に続くんじゃないか」というような気持ちになる。「いつ明けるのかわからない夜」という所にそうした部分がすごくよく出ています。それとともに、シーンとした夜の駐輪場の雰囲気も立ち上がってくるようで、何も直接的には語っていないけれども、作者の心情が滲み出てくるような優れた歌だと思いました。

特別賞 穂村弘審査員選 講評

受賞作品

文末の小さな丸の名を忘れ「ピリオド日本語訳」出てこない

 神奈川県立光陵高等学校 1年 藤井 綾音

講評:穂村弘審査員

 文末の小さな丸とは、句点のことですかね。その名称を忘れて、軽いパニックになってしまって、「ピリオド日本語訳」と検索すれば出てくるかと思ったら出てこなかったという、ちょっとユーモラスな歌です。確かにそんな日本語訳は出てこないだろうけど、自分も追い詰められたら、「無理かも」と思いつつ同じようなことをしてしまうかもしれないです。この歌はそんな非常に小さいことを詠っているようでもありますが、では「句点」と「ピリオド」のズレは何だろうと改めて考えると、例えば「rain」だったら日本語訳では「雨」が出てくるだろうけど、本当にそれはイコールなんだろうか、同じように「Love」と「愛」は本当にイコールなんだろうかとそんな疑問もわいてきて、「ピリオド」と「句点」がズレているように、「雨」と「rain」なども実はズレているかもしれないという、大きな問題も孕んでいる。我々は結局、日本語の中に閉じ込められて生きているんだということを感じさせられるとともに、すごく微細なところを突いてくる、まるで世界全体がそこから剥けていくような、ソーセージの端っこのビニールの剥くところを見つけたみたいな歌です。とてもユニークで、今まで見たことの無いタイプだと思ってこの歌を選びました。

特別賞 江戸雪審査員選 講評

受賞作品

ちりめんじゃこじゃこじゃこじゃこさくらえび少数派を排除するクラス

 高田高等学校 3年 加藤 晴香

講評:江戸雪審査員

 読んだときに、さくらえびはきっとこの作者なんだろうと直感的に思いました。作者は何かに怒っているんですよね。それは少数派である自分自身の無力さであると同時に、少数派が排除されてしまって認められないことへの怒りなのでしょう。そんな感情を冷静に詠っています。

 技巧としても、「じゃこじゃこじゃこじゃこ」というラップみたいなリズムが面白いです。「じゃ」と、「排除」の「じょ」を絶妙に響かせていますね。また、「少数派を排除するクラス」という句またがりで、意志の強さを表現しているところなどにも注目しました。

 さらに、音の響きという聴覚だけではなく、ちりめんじゃこの中にさくらえびが混じっているという場面もパッと頭に思い浮かび、視覚的にも優れています。

 そんなふうに、一度に複数の感覚が刺激されつつ、最終的にこの人の怒りみたいなものがふわっと体の中に入ってくる。何度も読みたくなる、記憶に残る歌です。

特別賞 大森静佳審査員選 講評

受賞作品

サンダルは生まれたばかり陽の光水の光に包まれていて

 名古屋高等学校 2年 福田 匠翔

講評:大森静佳審査員

 初夏、新品のサンダルを履いて水辺などに一歩踏みだしたところでしょうか。「サンダルは生まれたばかり」という表現に静かな驚きがあって惹かれました。こう書かれると、サンダルがまるで小動物か何かのようにいま呼吸しはじめた感じがします。まっさらな夏を迎えるときの眩しい高揚感が「サンダル」にうまく託されています。

 そんな生まれたばかりのサンダルが、陽と水それぞれの乱反射するような光にきらきらと包まれて祝福されています。「ひ」や「り」の音をくりかえしながら、「陽の光/水の光に/包まれていて」と句ごとに音が膨らみクレッシェンドがかかる韻律も魅力的でした。

特別賞 小島なお審査員選 講評

受賞作品

 文化なんてないこの祭りで僕はあなたをおどろかす お化け役B

 東京都立千早高等学校 3年 磯部 洋希

講評:小島なお審査員

 文化祭に文化はない。参加する誰もが文化祭とは名ばかりで、そこに文化がないことを当然としている。当然すぎてそもそも文化について意識すること自体多くの人はほとんどないのかもしれない。そんな斜めの気分を漂わせながら、「僕」は「お化け役B」に徹する。名前すら付いていない「B」(AにはじまりEくらいまでいるのだろうか)が主体の自意識と仄暗くリンクする。「あなた」はたぶん素直な人。手作りのお化けに驚いてくれるはずだから。賑やかなばかりですこし退屈なこのお祭りにおいて、「あなたを驚かす」瞬間だけをちいさな救いとして、「僕」は期間中何度もあなた以外の人を淡々と驚かしつづけることになるのだろう。

  

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