【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
現在、認知症の発症率を高めるリスク因子が14項目知られており、このなかに「頭部外傷」という項目があります。頭部に強い衝撃を受けて脳しんとうやケガなどをした人は、そうでない人よりも認知症になりやすいことがわかっています。今回は頭部外傷についてご紹介します。

頭部外傷とは?
頭部外傷とは、交通事故、転倒、暴力、スポーツなどで、頭部に強い衝撃が加わることで起こるケガのことです。入院が必要になるような重症から、脳しんとうのように一過性ですぐに回復するような比較的軽いものまであります。
人や物にぶつかったり、転んだりすることが多いスポーツ(ボクシング、サッカー、サイクリング、ラグビー、アメリカンフットボール、アイスホッケー、レスリング、乗馬など)では、頭部外傷が起こりやすいため注意が必要です。
また、アルコールを飲んで酔っ払ったときに転倒したり、ケンカをしたりするなどして頭部外傷を受けることもあります。自転車による交通事故で頭部外傷を負うこともあります。
頭部外傷が認知症の発症リスクを高める理由
頭部外傷を受けたことがある人は、そうでない人よりも認知症になりやすく、しかも2~3年早く発症すると言われています。
頭部に強い衝撃を受け、脳にダメージが加わることが、後になって認知症の発症につながるというのは、何となくイメージしやすいかもしれません。頭部外傷により、脳の神経細胞が傷つき、アミロイドβやタウタンパクが早期にたまりやすくなると言われています。
実際に頭部外傷を受けたことのある人は、そうでない人と比べて、認知症の発症が数年早まるという研究結果(J Neurol 2022;269: 873–84)や、70歳ごろまでに認知機能や脳体積の低下が見られたという報告(Ann Clin Transl Neurol 2021; 8: 842–56)があります。
重症の頭部外傷はそれだけで認知症のリスクを高めますが、脳しんとうでも認知症のリスクが高まる可能性があります。

頭部外傷を予防するには?
頭部外傷を予防するためには、頭部を強い衝撃から保護することが重要です。
自転車に乗るときにヘルメットを付けることは、頭部外傷を予防するうえで大切なことです。いざという時にダメージを軽減するだけでなく、認知症予防にもつながることですので、ぜひヘルメットを装着するようにしてください。
特に、飲酒後には自転車に乗らないようにしましょう。飲酒によって判断力が鈍り、事故や転倒を起こしやすくなります。しかも、道路交通法違反になります。2024年11月から酒気帯び運転に対しても罰則(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が設けられました。
人や物と激しくぶつかる可能性のあるスポーツをする場合は、頭部を保護する用品(ヘッドギア、プロテクターなど)を付けるようにしましょう。サッカーをするときはできるだけヘディングをしないように決めておくのもよいでしょう。もし、頭部に衝撃を受けたり、脳しんとうを起こしたりしたときは、すぐにプレーを中止してください。
スポーツをすること自体は認知症予防に効果的ですので、頭部外傷を予防しながらぜひ続けてください。