比較的大きな船舶には、船尾側の舵とスクリュー(プロペラ)だけでは出来ない横の動きをサポートするため、スラスターという推進補助装置が備え付けられています。現船の試験船「第一鳥取丸」にもバウ(船首)スラスターを備え、出入港時等に活躍しています。
現船のスラスターは、よくある型のトンネル式で、船体の左右を貫通するトンネルを設け、その途中にプロペラを設置する構造ですが、新船で装備するスラスターは船底に設置するナカシマプロペラ株式会社のポンプジェットSPJ57Nを採用しています。


※ナカシマプロペラ株式会社からの提供
このポンプジェットには大きく2つのメリットがあります。まず1つめは360度、全方向の推進補助が可能となります。出入港の横の動きだけでなく、かにかごの試験操業で漁具を回収する際の活躍を期待しています。
かにかごの漁具回収は、まず旗竿とフロートの間のロープをスマル(小さい錨)で引っかけるところからスタートするのですが、旗竿に寄せきれない場合等、スマルを引っかけるのにミスすることがあります(2~3個投げるんですが)。ミスすると大きな船は小回りがきかないため、同じ場所に戻ってくるのに15分程度かかってしまってしまうんです。しかしポンプジェットがあれば、舵とスクリューで旗竿近くまで行った後、ポンプジェットで微速で旗竿に接近することが可能になります。これで百発百中となるはずです。
また、かにかごは延縄状に漁具が多数入っており、ロープを船で起こしながらウィンチでかごを回収していきます。この際にも、ポンプジェットで細かい軌道修正をしながら、投入したロープの軌跡に沿いながら微速で進み回収すれば、スクリューに漁具を巻き込むといったトラブルもなくスムーズに調査が出来ると考えています。

二つ目は、船底にあるため、波高が高い状況でも回頭が出来ることです。調査船調査は2~3日程度の航海となりますが、どうしても時化をしのぐ場面が出てきます(日本海は甘くない!)。この場合、船首を風(波)に対して立てるため、パラシュートアンカー(右上の写真参照)を打ちます。パラシュートアンカーを投入した際には、船首をパラシュートから離すため、スラスターを使うのですが、荒天時だと、トンネル式スラスターは下図のように水面から出たり入ったりするため、うまく回頭できない場合がありました。ポンプジェットは船底にあり、水面から出るようなことはないため、どのような状況でも回頭できることから、これが改善されます。躊躇なくパラシュートアンカーが打てることで、安全と安心の面が向上すると考えています。
※荒天時のイメージ
今回の漁業調査船では、海外製品を使わないようにしています。理由は現船同様に30年程度と長期使用になると、どうしても機器の故障が発生します。これが海外製の調査機器等になると、費用もですが、直るまでの期間が長く、いつ直るか見通せないことが最大のネックとなります(直しに出しても半年間、音沙汰なしといった具合)。ポンプジェットはドイツのSCHOTTEL社製のものですが、今回導入するSPJ57Nはナカシマプロペラが販売だけなく製造ライセンスも取得し、国内製造している型番になります。長期使用のアフターフォローも考慮して選定したものになります。
令和7年7月2日に金沢港クルーズターミナルにて石川県漁業調査指導船「白山丸(199トン)」の竣工式が執り行われました。
造船所は、我々の鳥取丸と同じく株式会社みらい造船。同様な規模の竣工式を想定していることもあり、参加させていただきました。


石川県らしくスルメイカとホッコクアカエビの調査に適した形の調査船で、先代に比べ船体を大型化し、航行安定性・居住性の向上が図られています。また、エンジン出力の増強による機動力の強化に加え、最新の魚群探知機や海底地形探査装置を装備し、効率的な資源調査や地震後の海底地形調査に対応している船でした。
水平方向の青色LED集魚灯(250W、48パネル)の照射にメタルハライド集魚灯(4kW、58灯)、集中管理型の自動イカ釣り機が14台、これと併せて船内凍結施設もあり、スルメイカ調査に対する情熱の高さが具現化している調査船という印象が強かったです。
鳥取県水産試験場が所有している第一鳥取丸(199トン)は平成9年2月に竣工した試験船で、今年(令和7年)で船齢29年となりました。
近年は、老朽化による不具合が発生し、海洋観測及び水産資源調査等の調査航海において、計画的な実施に支障を生じていることから、代船建造に向かうこととしました。

第一鳥取丸(令和7年6月30日撮影):かなり高船齢になりましたが、大切に使っているためキレイです。
まずは、今回の大切なビジネスパートナーとなっていただいた『株式会社みらい造船(https://miraiships.co.jp/factory/)』。国内で3カ所しかないシップリフト等の最新技術と、100年以上培ってきた熟練の技術によりフルオーダーメイドの船づくりを得意とする造船所です。先日、みらい造船(宮城県気仙沼市)を訪れた際には、素晴らしい施設以上に良い船を造ろうという造船所で働く人たちの熱意に触れ、絶対に良い船ができるという確信を得ました。


さて、今回建造する船は『精度が高く分かりやすい調査結果がリアルタイムに情報発信でき、長期使用に耐えうる調査船』をコンセプトに、省エネで安全性が高く女性の乗船に配慮した船を計画しています。
目玉は、試験・調査船では世界初導入であり、300トン未満船でも初導入となるかもめプロペラ株式会社の新世代舵システム「ゲートラダーシステム(GATE RUDDER®SYSTEM https://www.kamome-propeller.co.jp/products/gaterudder/)」(詳しくはPDFファイルを御覧ください)。これと併せて360度移動可能な補助推進器(スラスター)となるナカシマプロペラ株式会社のポンプジェット(SPJ57N)を採用しています。舵システムと補助推進器を別々のプロペラメーカーで装備することはかなりのレアケースとなり、両社の御協力と御理解に感謝しています。
ゲートラダー®の特徴と導入実績(pdf:169KB) ※ファイル中の画像は、かもめプロペラ株式会社からの提供
主機(エンジン)は、ヤンマーパワーテクノロジー(2025年10月1日からはヤンマーパワーソリューションズ)株式会社の6EY22AW。現船のエンジンと同出力ながら一回り小さく機関室にゆとりが取れます。付随していただけるモニタリングシステムも素晴らしく、主機の使用状況からメンテナンスに必要な情報まで網羅されており、異常発生時の早期原因究明や保守管理に役立ちそうです。また、メンテナンス要らずの金属ばね防振システムを導入します(詳細はまたの機会に)。

石川県漁業調査指導船「白山丸(199トン)」に搭載された6EY22AWとヤンマー工場での実機講習の様子
安全性の向上の一つとして古野電気株式会社の拡張現実(Augmented Reality)技術を活用した航行・操船支援システムを導入します(https://www.furuno.com/special/jp/envision/)。船に設置するカメラから得られる周囲の360度の映像をディスプレイ上に映し出し、その映像上にAR技術を用いて航行に必要な情報を重畳表示ができ、目視しづらい状況でも航行しやすくなるとともに、各船室でもARナビゲーション映像を共有できるようにします。
最後に、資源調査の分野でもリアルタイム情報が求められているとともに、今後の船員確保の面でも海上・船室からインターネットでつながることが重要となっていることから、衛星ブロードバンドインターネット「Starlink(スターリンク)」の海上利用向けサービスを導入します。
設備・機器等についても随時、紹介していきますので乞うご期待ください。