特集/医療と福祉、教育とロボがコラボ~地域で暮らす難病の子らを支える~

 重い障がいや日常的に医療的ケアを必要としているなど難病の子どもとその家族は、地域で生活する上でさまざまな困難を抱えています。県は日本財団との共同事業で、医療・福祉の多機能型施設を整備し、また、自宅や病室にいながら学習に参加できる機器を導入。取り組みを広げ、子どもたちと家族の地域生活を支援します。

博愛こども発達・在宅支援クリニックの様子
医療的ケアが必要な子どもらが利用できる「博愛こども発達・在宅支援クリニック」のデイサービス。利用中は、子どもとスタッフとで過ごす

博愛こども発達・在宅支援クリニックの様子2
博愛こども発達・在宅支援クリニックのデイサービス室で友だちに風船を渡そうとする髙野葉月ちゃん(中央)。利用初日の様子

支援が必要な子や家族の現状

  県内には、地域で生活する難病の子どもが約500人、うち医療的ケアを必要とする子どもは約150人います。
  医療的ケアとは、たんの吸引(気道に唾液やたんがたまらないよう、チューブを使って吸引する。)や経管栄養(鼻から胃まで、またはおなかに開けた穴(胃ろう)にチューブを通して栄養摂取を行う。)などの医療的な生活援助行為で、医師の指導の下、家族が行います。医療の進歩により、このようなケアを必要としながら在宅で生活する子は今後増えると予想されています。
  子どもが家族や同年代の友だちと地域で暮らすことは喜ばしい反面、ケアを怠ると命に関わるため、家族は必要に応じて利用できるサポートを求めています。しかし、こうした子どもを日中預ける所は少なく、訪問看護やリハビリなどの専門職も子どもの支援には慣れていません。そのため、付き添いや看護の依頼に応えるのは難しいのが実情です。当事者の抱える課題は、難病や重い障がいなど困難の状態や程度で異なり、また、それらが複数重なっている場合もあります。

在宅支援の拠点がオープン

  このような状況の下、2019(平成31)年4月、県と日本財団が共同で進めてきたプロジェクトの一環として、難病の子どもと家族を支える「博愛こども発達・在宅支援クリニック」が米子市にオープンしました。同クリニックには、医師、看護師、理学療法士、社会福祉士、保育士など10人が勤務。院長の玉崎(たまさき)章子(あきこ)さんは、多職種体制の利点を「さまざまなニーズに合わせた支援ができるほか、スタッフも知識や技術の幅を広げることができる」と話します。
  ここでは、発達障がいや感染症、てんかんなどの外来診療や通院が困難な子の訪問診療、肢体不自由児や医療的ケアが必要な子らが日中や放課後を過ごすためのデイサービスを提供。また、今秋には1泊以上の短期入所も開始。こうしたサービスは、家族の休息だけでなく、子どもが自立していくための発達支援が目的。さらに、支援者となる人材の育成も、鳥取大学医学部附属病院小児在宅支援センター(米子市)と連携して行います。

玉崎章子さんの写真
クリニック院長の玉崎章子さん

人材育成の様子
ケアを支援する専門人材育成も実施(写真提供は玉崎さん)  

家族や本人の安心を大事に

  デイサービスを利用する4歳の髙野(たかの)葉月(はづき)ちゃんは、小腸から十分に栄養が吸収できない短腸症候群のため、胃ろうや点滴からも水分や栄養を取っています。2016(平成28)年に葉月ちゃんが生まれてからずっと、入院生活を共にしていた母の希美(のぞみ)さんは「どこにも行かず、仕事もできない。息が詰まった」と当時を振り返ります。2019(平成31)年1月、在宅医療に切り替え。「医療的ケアがあって母子分離保育できるのはここだけ。サービス利用中は気持ちが解放され、ありがたい」と話します。
  一方、このクリニックが訪問診療を行うことも院長を引き受けた理由の一つと言う玉崎さん。「訪問診療時は、『ホーム』にいる安心感から外来時とは違った姿が見られる。真の在宅支援のためには、自宅で過ごす子どもの表情を知っておかないと」と訪問診療の意義に力を込めます。
  サービスの利用は、クリニックにお問い合わせを。見学も受け付けています。

バランスボールを使って体の硬直を和らげる様子
バランスボールを使って体の硬直を和らげる

医療法人同愛会 博愛こども発達・在宅支援クリニック

外来・入院診療、訪問診療(要予約)
受付時間
外来 午前9時から正午、午後4時から5時30分 ただし、土曜日は午前9時から午後1時
訪問 午後2時から4時

休診
水曜日の午後、土曜日の午後、日曜日、祝日、年末年始

障がい児通所事業
○医療型児童発達支援・児童発達支援 平日午前9時から午後5時
○放課後等デイサービス 平日午後1時から5時
※このほか、訪問リハビリや医療型短期入所を実施。

【問い合わせ先】 米子市両三柳
電話 0859-29-8010 ファクシミリ 0859-29-8020
http://www.hakuai-hp.jp/kodomo/


分身ロボで病児の学習支える

  県は、病院や自宅で療養している病気療養児が学校の授業や行事に参加できるよう、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)下写真」を導入しました。教育現場への導入は鳥取県が全国初です。
  これも、難病の子どもと家族を支える日本財団との共同プロジェクトの一つ。2017(平成29)年度から2年間、県立鳥取養護学校、同皆生養護学校、米子市立就将(しゅうしょう)小学校に試験的に1台ずつ導入。スムーズな学校復帰につながるという結果が今年3月、県・医師・研究者らで構成される検証会で報告されました。
  手を上げたり、首を振ったりするなどのオリヒメの動作は、教室の子どもたちに受け入れやすく、本人の分身として声を掛けられます。一方、操作する方も病室や自宅の様子、療養中の姿が相手側に映らないため、気を遣うことなく使用できます。
  実証事業に関わった、難病の子どもの支援団体「つなぐプロジェクト」(兼・コラボレーション・コンサルティング合同会社)の今川(いまがわ)由紀子(ゆきこ)さんは「リアルタイムで友だちを感じることは、療養生活を送る子を治療に前向きにさせる。中には『ロボットを作る人になりたい』と将来を語る子も」と話します。

分身ロボットによる学習支援のイメージ
分身ロボットによる学習支援のイメージのイラスト
オリヒメとは
  オリィ研究所(東京都)が開発したカメラ・マイク・スピーカー搭載の上半身人型ロボット。タブレット端末で操作し、離れた場所で、周囲を見渡したり、操作する人の声を届けたりすることができます。
  体を動かすことが困難な人や呼吸器を付けているため話すことができない人には、視線入力装置搭載のオリヒメアイが使いやすいです。

利用希望者には貸し出します
  一定期間入院や自宅療養する公立学校の児童生徒に必要に応じてオリヒメを貸し出します。希望する場合は、在籍する学校に申し出てください。利用の決定は、学校を通じてお知らせします。
  オリヒメは、コラボレーション・コンサルティング合同会社が学校に届け、使い方も同社が指導します。詳細はお問い合わせください。
オリヒメの写真

手を上げる、拍手をするなど頭や腕を動かして意思表示も。下写真は「うーん」と悩むオリヒメ
オリヒメの写真2

【問い合わせ先】 県教育委員会事務局特別支援教育課
電話 0857-26-7575 ファクシミリ 0857-26-8101

使う人に合わせ、社会につなぐ相棒

コラボレーション・コンサルティング合同会社
代表社員

石原(いしはら)睦巳(むつみ)さん、今川由紀子さん

石原睦巳さんと今川由紀子さんの写真
オリヒメを「ヒメ」と呼び、県内外に発信している今川さん(左)と石原さん(右)

  2016(平成28)年に開設された「小児在宅支援センター」に関わったことがきっかけで、病気や障がいのある子を社会へつなぐ活動を開始しました。日本財団に相談したところ、オリヒメを紹介され、実証実験に関わることに。学校の先生と共に悩んだ活用方法は、今や校内のみならず、遠足や社会科研修などにも。
  校外にオリヒメを連れて行くことで、自宅や病室でオリヒメを操作する子も、友だちと同じ時に同じものを見ることができます。さらに、将棋やトランプでの対戦も。教室の子どもと対戦するオリヒメは、まさに操作する子の分身でした。
  また、気管切開により会話ができなくなった子にオリヒメアイ(上記参照)を使ってもらったときのこと。オリヒメを介して、わが子と会話ができたと心から喜ばれました。
  誰にでも対応可能とまではいかなくとも、オリヒメは使う人に合わせてコミュニケーションを当たり前にする方法の一つです。

県立皆生養護学校の実践例

同時の体験が成長促す

  皆生養護学校5年生の加藤(かとう)愛美(ことみ)さんは重い心臓病があり、感染症を避けるため、週に数回、通学して授業を受けるほか、教員が自宅を訪ねて授業をする訪問教育を受けています。登校した日には、「行けて良かったね。ありがとう」と母に伝える愛美さん。学校での授業は、たとえ数時間でもうれしく、長期の休みは気持ちに張りがなくなってしまうほどです。
  オリヒメを通じた遠隔学習は、2017(平成29)年11月から。生活経験を中心とした学習のほか、6年生を送る会や始業式の時などに活用しました。
  「家の中の様子が相手側に映らないので、気軽に使用できるのが利点の一つ」と話すのは愛美さんのお母さん。愛美さんも初めは、端末の操作とオリヒメの実際の動きがイメージしにくかったものの、オリヒメを介して教室の友だちに話し掛けられ、音楽学習では友だちと共に楽しむ様子も。6年生を送る会に向けては、当日まで歌を懸命に練習しました。会には、オリヒメを使い、在校生の一人として参加。練習を重ねた歌で、みんなと一緒に6年生を送りました。
  自宅で家族だけと過ごす愛美さんに、一つでも多くの経験をさせたいと願うお母さん。「会の当日だけでなく準備の段階から自分も関わることができ、その体験が自分のものになった」と娘の成長に喜びを感じています。

オリヒメを初体験したときの加藤愛美さんの写真
学校で初めてオリヒメを体験したときの加藤愛美さん(手前)(写真提供は皆生養護学校)

先進例広げ生活の安心つくる

  病室や自宅からの授業参加を可能にし、学習や学校復帰の支援を担うオリヒメ。これまで実証実験を行った3校に8台が配備され、本年度から他校の子どもへの貸し出しが可能になりました。(手続きは上記を参照)
  また、博愛こども発達・在宅支援クリニックは、医療と福祉のワンストップ提供と同時に、人材育成によって在宅生活を支援する、県内初の事業を開始しました。
  こうした取り組みの広がりがやがて、難病の子どもと家族が安心して地域で暮らせる社会へとつながります。

【問い合わせ先】

県庁子ども発達支援課(障がい児等の地域生活支援関係)
電話 0857-26-7865 ファクシミリ 0857-26-8136

県教育委員会事務局特別支援教育課(遠隔学習支援関係)
電話 0857-26-7575 ファクシミリ 0857-26-8101



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