【監修】鳥取大学医学部認知症予防学講座(寄附講座)浦上克哉教授
2024年10月から、自治体による定期接種に新型コロナワクチンが追加されました。65歳以上の高齢者、もしくは60~64歳で基礎疾患※のある方が対象です。これからは、高齢者は冬が来る前にインフルエンザワクチンと一緒に新型コロナワクチンを接種することが当たり前になっていくのではないでしょうか。
※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
新型コロナが認知症のリスクを高める可能性がある
実は、新型コロナウイルス(COVID-19)に感染することが、認知機能を低下させたり、認知症のリスクを高めたりするかもしれないという報告1,2)が出ています。
また、ある研究によると、感染症で入院したことのある人は、そうでない人と比較して認知症になるリスクが高いという報告もあります3)。
新型コロナやインフルエンザのワクチンを接種して、感染症にならない、なっても重症化せず、入院しなくてもすむように予防しておくことは、認知症予防にもなる可能性があります。
感染症が認知症リスクになる理由
感染症が認知症のリスクを高める理由は十分には分かっていませんが、全身性の炎症が関わっているのではないかと考えられています2)。
ウイルスや細菌などに感染すると、それらを排除するために体内で炎症が起こります。通常、炎症は局所にとどまりますが(例:喉にウイルスが感染して喉だけに炎症が起こる)、感染症がひどくなると炎症が全身に広がります(例:細菌が血液内に入り込んで敗血症を起こし、全身で炎症が起こる)。入院が必要になるような重い感染症では、全身に炎症が広がっていることが多いです。
全身性の炎症が起こると、脳にウイルス・細菌が侵入しやすくなったり、脳にとって良くない成分が入り込んできやすくなったりします。また、脳の血管にも炎症が起こり、詰まりやすくなったり(脳梗塞)、出血しやすくなったり(脳出血)して、血管性認知症のリスクが高まります。
ワクチン接種による認知症予防
全身性の炎症が起こらないようにするためには、それを引き起こす病気を予防することが大切です。
ある研究は、インフルエンザ、帯状疱疹、狂犬病、破傷風、ジフテリア、百日咳、A型肝炎、B型肝炎、腸チフスの予防接種が、認知症リスクの低下と関連していると報告しています4)。
一方で、ワクチン接種と認知症リスクは関連がないという報告5)もあり、ワクチン接種が認知症予防に役立つのかという疑問にはまだ決着が付いていません。
しかし、感染症で入院をするということは、つらい症状で苦しみ、身体やこころに大きな負担がかかるということです。ワクチンを接種してそれを予防することには、大きな価値があります。
高齢者はインフルエンザと新型コロナのワクチンを接種しましょう
65歳以上(高齢者)であれば、インフルエンザと新型コロナのワクチンを受けることをお勧めします。接種できる期間や場所、助成などに関してはお住まいの市町村役場にお尋ねください。
自治体によって65歳以上の方には接種券が届くところもありますが、届かないところもあります。接種券が届かなくても、65歳以上ならインフルエンザと新型コロナのワクチンを受けることができます。
ちなみに、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンは同時に接種することができます。詳しくはお近くの医療機関にご相談ください。
<引用文献>
1)Crivelli L, et al. Alzheimers Dement 2022; 18: 1047–66.
2)Livingston G, et al.Lancet 2024;404(10452):572-628.
3)Muzambi R, et al. Lancet Healthy Longev 2021; 2: e426–35.
4)Wu X, et al. Front Immunol 2022; 13: 872542.
5)Douros A, et al. J Infect Dis 2023; 227: 1227–36.