第104回県史だより

目次

道路愛護運動と鳥取県復興宝くじ

 平成26年も残すところあとわずかとなりました。年の瀬を迎え、慌ただしい日々が続きますが、この時期のお楽しみといえば年末ジャンボ宝くじ。この年末ジャンボは全国で販売される全国自治宝くじですが、かつて鳥取県が独自の宝くじを発行したことがありました。

鳥取県復興宝くじの販売

 この宝くじは「鳥取県復興宝くじ」といい、昭和24年2月1日から28日まで、一枚20円のくじが60万枚売り出されました。賞金は一等30万円(以下9等10円まで)で、賞金とは別にミシンや自転車などの賞品もありました(注1)

 売り出し初日の2月1日には西尾愛治知事以下の宣伝隊が鳥取・倉吉・米子で街頭宣伝に繰り出し、「復興のために宝くじを買いましょう」と呼びかけました(注2)。東伯郡上北條村では売り出し初日に割当分の1500枚を売り切り(注3)、売り出し期限の前日2月27日には西伯郡の一部売り残しを「引っぱりだこの鳥取市」に引き取り、西尾知事や坂出公報局長らが再び街頭に立ち、全枚数を売りさばきました(注4)。3月5日の抽選会は鳥取市大黒座で開かれ、主催者挨拶のあと吉本興業の芸人らによる奇術や漫才などの余興が行われ、小型手回し抽選器による抽選が行われました(注5)

鳥取県復興宝くじの賞金・賞品と本数の表"
表1 鳥取県復興宝くじの賞金・賞品と本数

宝くじの使い道

 宝くじの発行で得られた1200万円はどのように使われたのでしょう。経費として賞金総額461万円と賞品代金39万円、これに発売手数料や当選金支払い手数料の103万円、宝くじの発行経費76万円が必要でしたので、これらを差し引いた520万円(43.3%)が県の事業に使われました。うち400万円は道路修繕費に使われ、「最も効果的に補修を実施するため、県下二百余の道路愛護団体並びに各市町村等の協力を得て、去る三月十五日着工一部を除き工事を完了」。残り120万円は県行造林費に充てられ国庫補助金80万円をあわせ計200万円で県下113町歩(約112ヘクタール)に28万2800本の植林が行われました(注6)

鳥取県復興宝くじの収支の表"
表2 鳥取県復興宝くじの収支

道路修繕と道路愛護運動

 そもそもこの宝くじ発行の目的は、道路修繕費の不足を補うためでした。昭和23年11月定例県議会で50万円の土木費追加予算案に関して質問に立った衣笠直市議員は、県内の道路橋梁が荒廃しきっているにもかかわらず50万円のうち道路修繕に25万円しか充てられないのは不十分だと主張。知事は道路修繕の必要性を認識しながらも国費補助が得られないため宝くじの発行を企画していると発表。議員各位に協力を求めたのでした(注7)

 道路修繕に協力した「県下二百余の道路愛護団体」とは、「道路愛護治水施設保全奨励規程」(注8)により各地に設立された団体で、障害物の撤去や路肩の雑草の刈り取り、降水時の排水状況の確認、冬期の雪かきなどを行い、優秀団体は表彰されました。昭和22年4月、県は「道路愛護運動実施要綱」を定め、道路愛護の一層の推進を図るとともに、特に次の趣旨について県民理解を求めました。

  • 道路は再建日本の基盤となるものであり且つ「街の鏡」である。道路は日常生活に密接なる関係があり、直接間接を問はずその良否については常に関心を持たなければならないこと。

  • 国府県道は県が管理し維持するのが当然ではあるが、県のみに任すことなく我等の道路であってお互に利用するのであるから、市町村道や里道と同じく今まで年中行事として行はれて居る路普請をするのと同様の気持で愛護の気持を呼び起こすこと。

  • 鳥取県の道路は戦時中より引きつゞき、又降雪等の為著しく荒廃して居て到底県のみの力では急速に整備出来ない状態にあるので、一般県民に援助を求めることになったこと。

  • 生徒・団員に対しては地方自治が確立された今日、公共物と自治との関係を説き、道路愛護に参加することによって実際教育による民主的精神の涵養(かんよう:ゆっくりと養い育てること)に資する様に計はれたきこと。

 道路を「街の鏡」として、また身近な公共物として愛することにより、若い世代が民主主義や地方自治という戦後精神を養うこともまた目的の1つとされたのでした。

おわりに

 鳥取県の道路は、昭和33年に就任した元建設事務次官石破二朗知事の時代に飛躍的に整備が進みます。しかし、終戦直後の道路状況は、鳥取大震災の影響等もあってかなり深刻で、「道路の良否が直ちに産業その他各施策の基盤に重大なる影響を与える」(前掲23年11月議会議事録)ことは多くの人々の実感でした。そうした道路復興への県民の思いもまた、鳥取県復興宝くじの購買意欲を支えていたにちがいありません。

 道路愛護運動は、現在は「鳥取県土木施設愛護ボランティア」(注9)として受け継がれています。今回は鳥取県で発行された宝くじを手がかりに、戦後の道路行政の出発点を振り返ってみました。

(注1) 昭和24年1月14日鳥取県告示第22号

(注2)「県宝クジ引張だこ/売切れますと宣伝隊繰出す」(昭和24年2月1日付日本海新聞)

(注3)「売切で嬉い悲鳴/東伯郡下の県宝くじ好調」(昭和24年2月3日付同)

(注4)「売れたぞ!県宝くじ/五日・余興も楽しく抽せん会」(昭和24年2月27日付同)

(注5)「胸はわくわく/県宝くじ抽選狂燥曲」(昭和24年3月6日付同)

(注6) 「昭和23年10月1日から昭和24年3月31日までの期間における鳥取県財政概況」(昭和24年5月31日付鳥取県告示第320号)

(注7)「昭和23年11月定例会鳥取県議会議事速記録」11月16日議事

(注8) 「道路愛護運動について」昭和7年4月22日鳥取県告示第154号

(注9) 鳥取県技術企画課のホームページ

(西村芳将)

資料紹介【第13回】

伝説の狐「経蔵坊」を祀る神社

 経蔵坊(別名:慶蔵坊、桂蔵坊)は、鳥取城主の命を受け江戸への飛脚を務め、三日三晩で江戸と鳥取を往復したという伝説を持つ狐です。現在は鳥取城二の丸の中坂稲荷神社に祀られています。格式高い城内に伝説の妖怪ともいえる狐が祀られているのは、不思議な感じもします。鳥取城下が一望できる二の丸に訪れた際、ぜひ見学していただければ思います。

稲荷神社の写真
経蔵坊が祀られるという鳥取城二の丸の中坂稲荷神社
稲荷神社に張られたお札の写真
中坂稲荷神社に張られたお札に「慶蔵坊稲荷大明神」と見える

活動日誌:2014(平成26)年11月

1日
県史編さん協力員(古文書解読)東部地区月例会(鳥取県立公文書館、渡邉)。
2日
県史編さん協力員(古文書解読)中・西部地区月例会(倉吉市・米子市、渡邉)。
10日
古代中世部会にかかる協議(鳥取大学、岡村)。
12日
第2回新鳥取県史編さん委員会(公文書館会議室)。
13日
民具調査(鳥取市賀露地区公民館、樫村)。
16日
「古記録編」史料検討会(公文書館会議室、岡村)。
17日
古代中世部会(公文書館会議室)。
「古文書編」史料検討会(公文書館会議室、岡村)。
資料調査(鳥取市役所本庁舎、前田)。
ブックレット編集協議(米子市、樫村)。
19日
資料調査(米子市埋蔵文化財センター、湯村)。
20日
遺物の検討(公文書館遺物実測室、文化財課職員、湯村)。
民具調査(鳥取市賀露地区公民館、樫村)。
26日
遺物実測図の検討(むきばんだ史跡公園、湯村)。
史料調査(大山町役場、渡邉)。
27日
銅鐸計測の協議(倉吉博物館・県立博物館、湯村)。
史料調査(伯耆町、岡村)。
資料調査(智頭町中央公民館、前田)。
民具調査(鳥取市賀露地区公民館、樫村)。
28日
資料編への掲載依頼(大山町、岡村)。

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編集後記

 平成26年という年が去ろうとしています。しかしこの年末、県史編さん室は新しくまた懐かしいメンバーを迎えました。県史編さん室が組織された平成18年4月から平成23年3月まで現代部会担当であった西村芳将文化政策課課長補佐が、兼務(来年1月からは本務の予定)として県史編さん室の現代担当に復帰したのです。今回は復帰の挨拶代わりに、まず「県史だより」に投稿をと無理にお願いしたのですが、快諾を得ました。記事は一般に公開されてている県の「告示」、図書館で閲覧可能な新聞記事を中心とした資料として、戦後復興として道路修繕等インフラ事業費捻出のための宝くじについて説明し、この事業が現在の県政にも引き継がれていることを明らかにしています。これから行政マン、研究者という二足のわらじを履いてきた経験から独自の記事を書いてもらえると思いますので、皆様御期待ください。

(樫村)

  

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