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目次

因州オウレン(黄連)の採集加工用具について

はじめに

 第113回県史だより(2015年9月)では、2015(平成27)年早春、鳥取県の特徴ある庶民生活の一端を示す重要な資料群であるという考えから薬草オウレン(黄連)関係の写真や採集用具などの調査を開始し、智頭町の薬草問屋である大阪屋においてオウレンの写真はもちろん、オウレン根の標本、その採集や加工の用具が所蔵されていることが判明したこと、さらに智頭町福原ではさらに多くのオウレン採集加工道具を発見できたことを報告しました。今回はそのオウレン採集加工に関する用具を紹介させていただきます。

確認済みのオウレン採集・加工用具

 オウレン採集加工用具については、調査の便宜上、1採集、2運搬、3調製、4計量・出荷、5保守管理、6種子管理という仮分類を作業別にしました。智頭町智頭の薬草問屋である大阪屋で確認できた資料は、仮分類のうち、ひげ根切りの鎌、オウレン分け機、オウレン磨き車、篩(ふるい)等の8点でした。しかし工程の内、1採集に関しては、薬となるオウレンの根茎を掘り起こすことに使用するオウレン鍬が在庫なく確認することができませんでした。

 その後、智頭町福原でオウレンを栽培し、採集加工を行なっていた個人宅で確認できた用具は以下のとおりです。

 1採集、2運搬、3調整、4計量・出荷までの工程の用具として、オウレン鍬、荒縄、ひげ根切りの鎌、オウレン分け機(新旧2点)、毛焼きバーナー、火箸、オウレン磨き車、篩などを確認しました。また新たに5保守管理に関する用具として山の下刈り鎌や熊手などがあったこと、6種子管理についても種子の保存に使った袋があったことが判明しましたが、その用具自体は一部確認できただけであり、再調査が必要な状況です。

1.採集用具

 現在確認できる採取用具は、オウレン鍬です。カギとも呼んだといいます。柄から爪までの長さは約400ミリメートル程度で、片手で使いオウレンを根茎から掘り起こしたといいます。爪は2本で、オウレンの栽培地では比較的多く見られる用具です。

オウレン鍬の写真
オウレン鍬

2.採取・運搬

 掘り出したオウレンはドンゴロス(麻袋)に入れます。またビニールの肥料袋なども使われたようです。主に杉林の斜面で採集されドンゴロスに入れられたオウレンは、オイコ(背負縄)で担がれて運び出されました。

 また春に山中のオウレンからは種子が採集されましたが、これもドンゴロスとオイコが使用されました。

ドンゴロス(麻袋)の写真
ドンゴロス(麻袋)
オイコの写真
オイコ(背負縄)*参考画像

3.調整

 採取されたオウレンには商品にならない葉や茎、ひげ根などがまだついています。この不要な葉、茎、ひげ根などをとる用具が髭根切りの鎌です。この鎌は柄に台がついていて、刃を上にして立てることができます。この上に座る、または台に固定して使用します。この作業は主に女性の仕事でした。

ひげ根切りの鎌の写真
ひげ根切りの鎌
 
オウレンのひげ根切りの様子の写真
オウレンのひげ根切りの様子(1978(昭和53)年頃)

 オウレン分け機という用具もあります。オウレンの根茎は複雑に絡まっている場合が多いのですが、これを分ける道具です。この絡まった根を分けるには数種類方法があるようですが、オウレンの根塊に歯を突き刺し、柄を右に回すと歯の一部が柄とともに回転し、塊を引きはがす構造のものや、電動ローラーで軽くつぶすようにして塊を離す方法などがあります。

 
手動のオウレン分け機の写真
オウレン分け機(手動)
 
電動のオウレン分け機の写真
オウレン分け機(電動)

 ひげ根切りの鎌でひげ根はきれいにとれるわけではありません。残ったひげ根は、ガスバーナーで焼いてしまいます。

毛焼きバーナーの写真
毛焼きバーナー
電動のオウレン用火箸の写真
オウレン用火箸

 そして焼いたオウレンの根を磨き車という用具の中に入れて回すと、摩擦で焦げた部分やゴミがとれ、網の目の部分からゴミなどが落ちてオウレンが出荷できる状態になります。

手動の磨き車の写真
磨き車(手動)
電動の磨き車の写真
磨き車(電動)

 ガスバーナーを使用する以前はたき火でひげ根を燃やし、たらいの中に入れて手のひらにわら草履をつけた女性が揉むようにしてオウレンを磨き上げたといいますが、それに直接使用した道具は見つかっていません。

 またきれいにする調整では小さな篩、箕なども細かい作業に使われました。

4.計量・出荷

 出荷の際には重さを量り、梱包されました。昨今、薬草問屋ではバネばかりや台ばかりを使用して計量し、箱詰めで出荷しているようですが、かつては竿秤などで計量し、出荷も段ボール箱ではなかったと思われます。このかつての作業や用具については課題となります。

バネばかりの写真
バネばかり
出荷用の箱の写真
出荷用の箱

5.保守管理

 杉林の中でオウレンの種を蒔き、育成させますが、地面に草木が生えていたり、枝葉がたくさん落ちていたりするとオウレンの育成の障害となります。よって草木を刈る山の下刈り鎌や、枝葉を集める熊手などもオウレンに関係する用具になります。

山の下刈り鎌の写真
山の下刈り鎌

6.種子採集管理

 これについては、2採集・運搬でも記したようにドンゴロスやビニール製肥料袋が使用されたようですが、種子が乾燥しないように砂などと混ぜて保管するときにはドンゴロスなどよりも小さい袋があったといいますが、それが具体的にどのようなものか判明していません。この部分も課題となるところです。

オウレンの種子採集の様子の写真
オウレンの種子採集の様子(1978(昭和53)年頃)

おわりに

 オウレンの採集加工用具において、わら草履、たらい、熊手などは実際にオウレン採集加工に使っていませんが同様なものは現地でみることはできます。しかし古い時代の道具で汎用性が高い日常品、消耗品は、真っ先に失われ、実際にオウレンの採集加工に使用したものを発見することが難しくなりました。

 高度経済成長以前の種採取袋、根焼きバーナー以前の用具など古い時代の作業と用具の関係も前述のとおりまだ明らかになっていません。

 これについては鳥取県内で調査を進める一方、「越前黄連」(福井県)、「丹波黄連」(京都府中西部)の採集加工用具との比較も行いながら、可能な限り明らかにしていきたいと思います。

(参考文献)

智頭町誌編さん委員会『智頭町誌 下巻』智頭町 2000

三鍋昌俊編『増補版 薬草オウレンの研究』風間書房 1981

伊阪実人・今井三千穂『オウレン-林内栽培と畑地栽培―』農山漁村文化協会 1987

(樫村賢二)

活動日誌:2015(平成27)年11月

2日
古墳測量の入札説明会(八頭庁舎及び古墳現地、岡村・湯村・西村)。
5日
資料調査(小鴨神社、岡村)。
7日
出前講座(境港市中央公民館、樫村)。
9日
古墳測量の入札(公文書館会議室、湯村・中西)。
近代部会(公文書館会議室)。
10日
資料調査(江府町個人宅・賀茂神社・石見神社、岡村)。
青銅器調査の立ち会い(奈良文化財研究所、湯村)。
11日
資料調査(神田神社・長田神社、岡村)。
12日
資料調査(熊野神社、岡村)。
鳥の劇場取材(遷喬地区公民館、西村)。
13日
資料調査(善福寺、岡村)。
17日
資料調査(日吉神社・貴布禰神社、岡村)。
18日
古墳測量の打ち合わせ(公文書館会議室・福本大塚古墳現地、湯村)。
19日
古墳測量の日程説明(地権者宅、湯村)。
資料調査(~20日、大山寺、岡村)。
21日
史料調査(琴浦町、八幡)。
23日
現代部会(公文書館会議室)。
24日
資料編近世にかかる調査(用瀬町、岡村・八幡)。
資料調査(岩美町、西村)。
25日
資料調査(やまびこ館、西村)。
資料調査(長田神社・聖神社・根雨神社、岡村)。
26日
青銅器運送(~27日、湯村)。
鳥取市議会資料調査(鳥取市役所、西村)。
30日
資料借用(琴浦町教育委員会・北栄町教育委員会、湯村)。
資料調査(日吉神社・宇田川神社・天神垣神社、岡村)。

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編集後記

 年の瀬が押し迫ってきました。県史編さん室では現在、今年度に刊行予定の資料編、ブックレット等3冊の準備作業が行われています。年度末に刊行予定の印刷物がある場合、担当者はこの年末あたりから精神的な重圧感が増してきます。私もその重圧を感じている担当者の一人ですが、刊行物を計画どおり無事発刊し、よい新年よりもよい新年度を早く迎えたいというのが正直な気持ちです。

 しかしネガティブになりがちな気分を新年で心機一転し、最後の追い込みに力を入れたいと思っています。では皆様よい新年をお迎えください。

(樫村)

  

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