漁師町に冬の到来を告げる郷土料理
天日干ししたスルメイカを使って作る「するめの糀(こうじ)漬け」は、漁師町に冬の到来を告げる郷土料理。スルメイカを調味料と糀でまぜ合わせるだけの至ってシンプルな料理だが、一緒に漬ける具材は家庭によってさまざまで、まさに「お袋の味」だ。
鳥取県岩美町では、キュウリやナスといった夏野菜の塩漬けとまぜ込むのが一般的で、彩り鮮やかで栄養バランスも良く、白いご飯のお供や酒のさかなとして冬の食卓に欠かせない。
2週間ほど漬け込んだイカのほどよい甘みと歯応え、糀のやわらかな甘みと風味が食欲をそそる。作ってから2、3カ月は持つといい、保存食としても重宝される。
田後漁協女性部長の井上美千代さん(65)は「いつごろから食べられ始めたのかは知らないが、私が生まれる前からあった」と話す。糀1枚(800グラム)単位で作る糀漬けは、小さなバケツ1杯分。井上さんは「作ったら近所にお裾分け。冬の近所付き合いには欠かせないアイテム」と笑う。
「田後のイカは風味が違う」と女性部員たちは口をそろえる。冷たい海風で干したイカは1日で乾燥し、適度な塩気と甘みが違いを生む。
採算性が低いため同漁協では商品化しておらず、受注生産のみで対応している。井上さんは「いろんな課題はあるが、いつか商品化できたら」と話している。